• 山田風太郎『警視庁草紙』読了。忍者帳シリーズと比べて、登場人物の哀感や共感が一層つのる世界。幕末の動乱は過ぎ、勝者は驕り敗者はうらぶれゆく、されど、未だ傷口は生々しく、血は固まるに至っていない。そんな近代への移行期を舞台に筆が冴えわたる。ずっと読み続けていたいような連作。変わりゆく世の中に取り残された人々、その気骨と意地、世の中を変えていく人々、その傲慢と殺伐。いずれもの哀しみを乗せて時代は動いていく。
  • 山田風太郎の世界の魅力の一つは、そのヒューマニズム、素朴な市井の人々への共感にあるのだけれど、その一方で冷徹な現実をある種の諦念を持ってずばりと描くところに、面目躍如たるものがある。そして、決して、その見方がニヒリズムに陥らないところが、複雑なところであり、また魅力だと思う。