東京フィルメックス初日:「モラン神父」、「ギャング」、「ヴィザージュ」


 昨日は東京フィルメックスで映画3本朝から晩まで見た。
 まず、J.P.メルヴィル。最近結構DVD出てるんだけど、あの白黒の画面は、やっぱりスクリーンで見ないと、見た気がしない。

モラン神父 1961年(117分)
監督/ジャン=ピエール・メルヴィル
出演/ジャン=ポール・ベルモント エマニュエル・リヴァ

 1本目は「モラン神父」。第二次大戦のドイツ占領下のフランスの地方都市で、レジスタンスで夫は山に籠もり、残された人妻が進歩的な神父に心惹かれ、・・・という、典型的なヴィシー政権よろめきドラマ。こういうの、フランス映画いっぱいあるんだよな。トリュフォーの「終電車」とか。フランス人が増村保造の「赤い天使」好きだというのも、わかるなあ。こういう戦争で明日もしれない状況の中でも恋愛してる国って、戦争弱そうだけど。
 これは、ジャン=ポール・ベルモントが進歩的な思想の神父というのが、絶妙だった。

ギャング 1966 (150分)
監督/ジャン=ピエール・メルヴィル
原作: ジョゼ・ジョヴァンニ
出演/ リノ・ヴァンチュラ ポール・ムーリス レイモン・ペルグラン クリスチーヌ・ファブルガ マルセル・ボズフィ ミシェル・コンスタンタン

 メルヴィル2本目。フィルメックスのHPでは150分だけど、他のデータベースを見ると120分だったりする。完全版なんだろうか?それでも、途中のストーリーについて行けない。人間関係が誰が誰とどういう関係なのか、途中でついて行けなくなった。だって、説明的なところがないんだもん。それがリアルなんだけど。
 現実はそれほど分かりやすくないから、長い時間をかけて我々は周囲の人間関係を理解するのだけれど、たかだか2時間前後の映画でそんなことをやったら訳が分からなくなる。でも、説明的な作り方をすると、やっぱりリアリティは薄まる。「気違いピエロ」だって、芸術云々よりもそういう難しさだ、と思う。あれだって、本当の難しさというのはその先の話。そういう意味では、こういう難しさ=分かり難さってどうよ?とは思うけど、これはそういうこと意図して作ったとも思えないので、やっぱり原作に起因するのかな。読んでみるかなあ。
 神の視点から見ればミステリーなんて無いんだよな。でも、ストーリーの視点を固定すると、光の当たらない影が謎になる。その幾何学的なトリックがミステリー。それは、神ではない我々が日々向かい合う世界の姿でもある。そこに、リアリティを見いだしていたのが、ヌーベルヴァーグだったのかもしれない。

ヴィザージュ 2009 (141分)
監督: ツァイ・ミンリャン(TSAI Ming-liang)
出演/ リー・カンション、ジャン=ピエール・レオファニー・アルダンジャンヌ・モロー

 ツァイ・ミンリャンは、正直苦手。というほど多くの作品見ていないけど。というのは、余りに官能的だから。こんなに触覚的で官能的な映画って、あっただろうか。これは、多分、ゲイでないと作れないような感覚なのかもしれない。ゲイじゃない人がこういう映画を作ろうとしても、単なるポルノ映画になってしまうんじゃないだろうか。それは、ストーリーに回収されてしまうか、その物語的な物に回収不可能な存在としての感覚・存在を持っているか?ということなのだと思う。
 上映後に、監督自身が、私の映画はそんな簡単に分かって貰わなくて良いよ、みたいなこと言っていたけど、それはもっともだと思う。分かると言うことは、物語に回収するということだから。何故か?と問えば分からないのに、忘れることの出来ないシーンばかりの映画。それがツァイ・ミンリャンの映画なのだと思う。
 この映画は、ルーブル美術館の初の収蔵作品なんだそうだ。撮影はルーブルの近くで行われている。最後の辺りのシーンで、ダ・ビンチの3枚の絵の下からジャン・ピエール・レオが出てくるシーンがあったが、事前の知識がなかったので、えっ?まさか、偽物だよね?と思ったけど、本物というより、ルーブルそのもので撮った映画だ、というのでぶったまげた。
 上映後のQ&Aで、林ディレクターが「この映画まだ配給決まっていないので、配給会社の人、社長すぐ来て!社長来てなければ、もう一回上映あるから呼んできて!」とアジっていたけど、ほんと、そうだよなあ、と思った。こういう映画を見たいと思ってくれる人って、フィルメックスの動員数くらいなんだろうか?まあ、これを会社で友達に勧められるか?と言われれば、明らかにノーだけど。
 Q&Aでは、ジャン=ピエール・レオの話は出たけど、ファニー・アルダンジャンヌ・モローの話も聞きたかったなあ。
 しかし、こういうモードを変えるような人が台湾からなんだなあ。微妙な差異化に耽る青山真治とか黒沢清なんかの日本の映画なんかより、はるかに才能のスケールが大きくて面白いなあ。
 やっぱり、ルーブル美術館、凄いわ。この人に好きなように映画一本撮らせるんだから。日本だったら、絶対日本人に撮らせそうだもんな。