「ミラーニューロンの発見」: マルコ・イアコボーニ

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)

 読了。


 猿の脳に電極をつけてみると、自分で動作をするときにも、相手が同じ動作をするのを見ているときにも発火している神経細胞があることが、イタリア・パルマ大学のリゾラッティらにより発見されたのが、20年ほど前。自分で手を使ってリンゴを掴むときにも、目の前の人がリンゴを手で掴むのを見ているだけでじっとしているときにも、同じ神経細胞に信号が流れる。これはどういうことか?
 このミラーニューロンは、脳の中でその刺激を真似ている。「シミュレート」している。
 目の前の人が悲しそうな顔をして泣いている。そのとき、我々は、何も考えなくても、相手が悲しいのだと瞬時に分かる。そのとき、我々の脳の中ではミラーニューロンが発火して、相手の悲しみを真似ているのだ。だから、何も考えなくとも瞬時に、我々は相手の悲しみを自分のことのように感じるのだ。ミラーニューロンが相手に「共鳴」することで、我々は相手の感情を理解するのだ。
 こうした神経細胞は成長過程で形成されるが、幼児の言語の習得にも、このミラーニューロンは深く関わっているらしい。自閉症や中毒などにもミラーニューロンは深く関係している可能性がある。このミラーニューロンの活動を調べることで、商品のマーケティングや、政治や社会的な人間の意識のあり方までがわかってくる可能性もある。これらの現在進行形の萌芽的な研究まで、この本の中では紹介されている。著者はイタリア出身のUCLAの教授。久しぶりに、読んでいて興奮するような科学の本だった。


 でも、そのミラーニューロンへの刺激はどこからどうやってきてそのパターンの刺激だと認識されるんだろう?とか、そのミラーニューロンの発火信号はどう受容されて我々は嬉しくなったり悲しくなったりするんだろう?とか、考えると、ドンドン分からないことが出てくるけど、この本でも述べられているように、それを調べようとしたら、生きている人間の脳みそに電極をつけなければいけない!一部のてんかん患者では、手術や治療のために限って、電極をつけて調べることがあるようだけれど、それ以外は人道的にとても認められない。だから、なかなかはっきりしたことを非侵襲の測定で理解するのは、技術的に難しいようだ。それは脳科学の宿命だろう。


 でも、「クオリア」なんて似非科学とも文学ともつかないような話ではなく、これはちゃんとした科学の話。ちゃんと実験して、データを積み重ねて、事実に向き合っていくと、真に驚愕すべきものに出くわしてしまうことがある。そういう科学の面白さが伝わってくる。 


 ライブ会場で何万人もが手を振っているときには、何万人ものミラーニューロンが一斉に「共鳴」しているのか。そう考えると、なんかすごいことだな。興奮や感動とか、そういう曖昧で個人によっても違うだろう感情的なこと以上に、もう生き物として、その場にいる全ての人間の同じ機能を持つ細胞が文字通り同じように発火しているというのは、感動的なことだな。


脳の世界:中部学院大学 三上章允
ミラーニューロン - Wikipedia