「資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす」: 竹森 俊平

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

 読了。素人には結構大変だけど、面白かった。第一章では、貨幣とは何か?みたいな話もあったり、全体としてあんまり構成がきっちりとしていないし、論理構成で流れていくという感じではないけど、まあ、読み通せたし、知りたいことは十分に分かった。文系の人や経済学部の人なら多分すらすら読めるんだと思う。
 第一章は「ゴーン・ウイズ・ア・バブル」と題して、サブプライム・ローンが発生するに至ったアメリカの住宅バブルについての分析。この辺は、「すべての経済はバブルに通じる」と同じだけど、あっちの方が新書的にわかりやすくすっきり書かれている。その分学問的ではある。「動学的効率性の条件」とは「その経済における投資収益性が成長率を上回る」ことで、「銀行に貯金しているより、投資した方が儲かりそうだな」という気になるということ。この第一章は結構疲れた。

 それでは危機発生の後、経済はどのように変化するのか。過去の経験を総括すれば、まず住宅、株式とも実質価格は下落する。銀行危機はさらに実体経済にも影響を及ぼす。実質GDPの成長率が下落するのである。どのくらいの下落かというと、まず、全体のサンプルについて言えば、成長率の下落は平均して2%である。またひとたび下落した成長率が、長期的な傾向に戻るのに、大体二年かかっている。
 しかるに「ビッグ・ファイブ」については、成長率の落ち込みはさらに深刻である。まず、実質GDPについてはピークの水準から、銀行危機後に成長率は平均して五%下落している。しかも銀行危機後三年が経過しても、成長率は長期的な傾向に戻らない。今回のサブプライム危機では、危機前の住宅価格上昇率が過去のケースと比べて際立っていたという観察と併せて考えると、危機発生後の経済不振も、少なくとも「ビッグ・ファイブ」に近いものになるのではないかとロゴフはコメントしている。

「ビッグ・ファイブ」と言っているのは、特に深刻だったスペイン(1977)、ノルウェー(1987)、フィンランド(1991)、スウェーデン(1991)、日本(1992)の銀行危機。確かに「全治三年」は覚悟しておいた方が良い。
 第二章は、「学会で起こった不思議な出来事」として、グリーンスパン時代のアメリカの市場至上主義が必然的にに引き起こすバブルに対する警鐘が2005年には正確に鳴らされていたのだという話。分かっていても止められない。天才が王様じゃない限り。では、どうすればいいのか?著者が考えているのは、現状維持志向。流行言葉で言えば、サステイナブル
 第三章は、「流動性−この深遠なるもの−」。この章はサブプライム・ローンの崩壊で金融市場の流動性がどれだけ危機的かという話。時価会計の導入が金融情報の伝達スピードを上げた結果、危機的状況での流動性が破綻する。