「すべての経済はバブルに通じる」: 小幡績

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363)

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363)

 読了。今のサブプライムローン問題がどういうメカニズムで生じたかを大変わかりやすく説明している。おすすめ。乱暴に要約する。

まとめ:サブプライムローン問題の作り方
1.ローン返済能力のない人にまで融資して、そのローンを債権にする。
 なんでそういう人にまで融資できるかというと、土地の値段が上がり続けていたから。借金して土地と家を買っても、利子以上に土地の値段が上がれば資産価値が増大しているので、ローンが払えなくなっても売ればおつりが来る。ならば、買わないと損をする。
2.ローンの債権をファンドにする
 各債権を格付けして、一定の基準を満たすものをまとめて、証券化する。ここで基準を満たせなかった不良融資案件が、サブプライムローン。これも格付けは低くても、ファンドにしてしまう。ファンドで一山いくらにしてしまえば、ここの住宅ローンの実像は訳が分からなくなる。というか、格付けが低い=返済能力が疑問、であっても、借金の金利以上に地価が上がり続ける限り、絶対損はない。地価の上昇を仮定するなら、投資家にとってのリスクは機会損失=土地を持たないこと。ファンド・マネージャーは運営の成績だけで評価されるので、資金を集められなければクビ。危ない橋でも渡らなければクビなのだから、渡るしかない。それで橋が切れても仕方がない。渡らなければ、その時点でクビなのだから。逆に言えば、クビになること以上のリスクはない。
3.弾けるまでバブルを膨らませる
 こんなことをやっていれば、どこかで破綻するけど、破綻するから止める、と言った瞬間にファンドマネージャーはクビなので、破綻するまでやるしかない。責任感が飽和している。でも、責任感を持って、ファンド運営を止める?そんな人はいない。ファンドマネージャー自身がその損失を埋める必要はなく、法人の問題なのだから。だから、みんな突っ走る。
4.誰かが「王様は裸だ」と笑う
 さすがにプロは分かっているので、不安を感じている。その上でチキンレースをしている。ここで誰かが不安を口にすると一気に信用収縮が発生する。今回は上海での暴落が引き金になったが、上海の相場が下がったからと言って、他の地域の相場が暴落しなければいけない理由はない。上海がブレーキを引いたので、みんなビビってブレーキをかけたら玉突き状態で、雪崩が起きた。

 この本の結論は、バブルというのは金融資本の投資によって必然的に起こる現象だということだ。特に、投資家が高度なIT技術を用い、グローバル市場ができあがってしまうと、今のところ暴走を止める術はない。
 このファンド・マネージャーの話は、あらゆる分野の企業内の専門家に共通する問題だと思う。サラリーマンの責任感は飽和する。プロジェクトの投資や重要性が自分の職務権限を越えた時点で、自分では責任をとれなくなってしまう。そうなると、現場に近い人間ほど、問題を正確に理解していても、止めるべきだと言えなくなってしまう。自分で自分をクビにするという判断は普通できない。自分の上司の責任だから、と、責任を上に送ることで、プロジェクトの問題は隠蔽され継続してしまう。こうなると、責任はどんどん上位のマネジメントに委ねられていくが、同時に意志決定者の理解の正確さは低下していく。しかし、現場からの不満は噴出するので、プロジェクトの外の人間は問題を客観的に把握していたりもする。しかし、プロジェクトが経営層のレベルにまで達していると、なかなか物を言えず、その役員の定年を待って、プロジェクトの縮小への動きをかけるしかないというような御粗末な事態になったりする。