「サイエンス・ビジネスの挑戦 バイオ産業の失敗の本質を検証する」: ゲイリー・P・ピサノ

サイエンス・ビジネスの挑戦

サイエンス・ビジネスの挑戦

 読了。論旨も明確であり、大変興味深かった。著者は、ハーバードビジネススクールの教授で、バイオ・製薬関連産業について長年研究を行ってきており、現在も製薬会社のコンサルティングを行っている人。過去20年の研究を元にこの業界の産業構造を分析した結果をまとめたのが本書である。
 一言で言えば、過去20年間のバイオテクノロジーの進歩は、製薬業界の新薬開発の生産性を全然向上させなかった。遺伝子組み換え、DNAチップ、ハイスループットスクリーニング、コンビナート化学などのバイオテクノロジーは、新薬開発に新しいパラダイムをもたらすことが期待された。多くのベンチャー企業が設立され、画期的な新薬が次から次へと登場するのではないかと思われた。しかし、そのような新しい手法が生み出した薬はほんのわずかだった。それにもかかわらず、新薬開発のためのコストは増大し、製薬会社は新商品のパイプライン枯渇に苦しみ、開発のコストに耐えるために規模の経済を追いかけ、大型合併を進めている。
 これは何故かといえば、結局、バイオテクノロジーは確かに新たな手法を実現したのだが、人間の分子生物学レベルでの生命活動はあまりに複雑であって、病気は複雑な因子が様々に影響して発症しているものなので、これが問題だからこれをこうすれば良い、というような単純処方で解決できるようなものではないからである。バイオテクノロジーにより、新たな実験手法莫大なやデータを研究者は手に入れた。しかし、がんなどの病気はあまりに複雑で、これをこうすれば病気は治るという生化学的なメカニズムはまだまだ完全な理解からは程遠い。