「アルツハイマーを知るために」: 佐藤 早苗

アルツハイマーを知るために (新潮文庫)

アルツハイマーを知るために (新潮文庫)

 読了。巻頭にアルツハイマーにかかった著者の父の絵が、病気の発症から進行の順に並べられている。これがものすごく怖い。本屋でこれを見て買ってしまったのだが、アルツハイマーの恐ろしさをまざまざと感じさせられた。発症前は静物の模写を描いて、画家の娘から「もっと自分の心の中を反映した絵を描かなきゃおもしろくない」と言われていたような人の絵が、ムンクも真っ青の不安に満ちた絵になっていく。どんどん不気味ななぞの人物が登場するようになり、そして、知能の低下と共に複雑なものが描けなくなり、人の顔が描けなくなりのっぺらぼうの絵になっていき、何を描いたのか分からない抽象画のような作品が最後になる。立ち読みでも良いから、この絵だけでも万人に一見をお薦めする。
 症状が進むにつれ、いつも行っていたところへの道が分からなくなり、家族も分からなくなり、徘徊を繰り返し、最後には何も分からなくなり死んでいく。進行のスピードに差はあれど、薬も進行の速度を遅らせる程度の効果を持つものしかなく、現在の医学では治療法は存在しない。家族にすれば、これほどつらい病気はないだろう。現実問題として、看護もしきれなくなり、最後は精神病院に入れるしかなくなってしまう。
 治療法もないなら、後はQuality of Lifeの問題とするしかないのだろう。こんな病気になったら、自分はどうしてほしいのか、これからはみんなあらかじめ考えておかないといけないのだろうなあ。