「シッコ(SiCKO)」監督 マイケル・ムーア

2007年、アメリカ映画(113分)

 アメリカって本当にすごい国だな、といまさらながら痛感。

  • 医療保険に入っていなかったら、中指と薬指を切断したとき、手術費用は中指は600万円、薬指は140万円、といわれて、薬指だけ接合してもらった。
  • 保険会社に務めている女性が(当然、自分の会社の保険に入っている)、子供が熱を出して、近くの病院に駆け込んだら、おまえの保険はうちの病院では対応していないから、別の病院に行け、とたらいまわしにされ、死亡。
  • 救急車を呼ぶにも、事前に申請しておかないと、交通事故にあって運ばれても保険はおりない。
  • 医者がこの治療をすれば助かるといっても、保険会社が「そんな治療はただの実験」と言って、保険の適用を認めないと、医者も手術しないので、あえなく死亡。
  • 医療費を支払いできないと、大学病院からタクシーで連れ出され、病院服のまま、ホームレス施設の前で放り捨てられる。
  • 911のボランティアは作業で呼吸系の疾患を患っている人たちが多いが、保険をまともに適用してもらえず、生活も苦しい。一方、逮捕されたアルカイダのテロリストは、証人として、刑務所の中で無料で手厚い医療保護を受けている。
  • 医療費申請に対して、ああでもない、こうでもないと言いがかりをつけて、高額な医療費を支払わないようにする専門のスタッフを保険会社は雇っている。
  • 保険金を支払わなくて良いように手術を拒否したり、治療方法を変えたりすると、医師には保険会社からボーナスが出る。

 質の悪い冗談としか思えないが、その質の悪い冗談がアメリカだ。金を出せばどんな先進医療も受けられるけど、世界一の医療機器も医療技術もあるけれど、金がなければそんな恩恵にはあずかれない。

 大体、保険会社が病院を経営しているとか支配しているというのが異常。何でもかんでも民営化して効率化すればいいというものではない。すでにカナダとかイギリスではこういう行きすぎを修正しようという方向になっているみたいだ。

 「医療立国論」にも、クリントンのスタッフが流出させてしまった電子メールが紹介されているんだけど、それは「国民皆保険制度を徹底的に正面から正直に取り上げろ、そうすれば、国民からは圧倒的に支持されるから、再選される。でも、利益を供与されている議員やロビイストが猛反対して、そんな案はつぶされるから、現実にどうやって実現するか悩む必要はない」というすごい内容だった。

 アメリカ人って、なんでこういうこと思いつくんだろうか。留学生向けのオリエンテーションで「自動車事故を起こしたら、絶対"I'm sorry"と言ってはいけない。過失を認めたことになって、向うが悪くても、裁判で負けて、とんでもない賠償金を請求されることになる」と教わったときから、あの国はおかしいと思っていたけど、それと同根の根深い間違いがあると思う。

 政治家がひどいのは大体どこの国も一緒だけど、弁護士とかMBAなんかのアメリカのエリートって、アメリカの悪の元凶だと思う。まあ、日本だって、どこの国もひどいけど、あんなに合法的にスマートに堂々と人を騙す奴らって他にいないと思う。大体、アメリカの大学ってレベルの高い大学は殆ど私立で学費が高すぎるから、大学を卒業した時点でローンを抱えてる。となると、初任給が高いところとか、儲かる仕事をして借金を返済せざるをえない。ストリッパーしながらアイビーリーグ卒業したなんてけなげな話もあったし。この辺、日本とはまたちょっと事情が違うんだと思う。

 人の国のことなら、人道的には同情するけど知ったことじゃないよな、という話で済むのだけど、どうも、日本の医療制度改革も当然アメリカのような仕組みにすることを目指しているみたいだし、うかうかしていると恐ろしいことになりかねない。

 国の財政が苦しくなると、当然しわ寄せの対象として真っ先に候補になるのは福祉、医療、教育だ。財源がないとか、赤字国債をどうするのか、ということになるんだが、だから、公務員減らしますなんて話も余り聞かない。

 考えてみれば、マイケル・ムーアが以前に「ボウリング・フォー・コロンバイン」で取り上げた銃規制の問題だって、解決した訳じゃない。未だにアメリカの大学や高校での銃乱射は起こっている。

http://sicko.gyao.jp/