「メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー」

 面白かった。文化人類学者にして、ヘビメタファンが作ったHM/HRを分析するドキュメンタリー。演奏シーンはほとんどないんだけど。
 あのハードロックからデスメタルまでに至る系図が凄い、というか、懐かしい。昔のプログレバンドの説明では、ああいう系図と人脈図が良くあったけど、もはや、あんなもの今の音楽に関しては作るのは無理なくらい混沌としているもんな。ブルース、クラシック、グラム、パンク、そうした音楽の影響を取り入れたバンドがあれだけ色々ありながら、HM/HRHM/HRというのが不思議といえば、不思議だ。「こんなに広い世界なのに大多数の人は何も知らない」と監督も語っているが、本当に不思議な世界だなあ。まあ、ブルースは一番最初のころには影響あったかもしれないけど(ジミヘンとか別にして。ジミヘンはすべての音楽だとも言えるが、すべてに対して特別変異という方が良いでしょう)、黒人音楽からは直接の影響を比較的受けずに育ってきた白人のマイノリティー文化と言ってもいいんじゃないだろうか。アメリカとイギリス以外のドイツから北欧のヨーロッパの国でもやたら盛んそうだし。あの辺の人たちって、何聴いてるんだろうな。日本に紹介されるようなおしゃれなのとかだけじゃないと思う。
 スウェーデンデスメタルバンドって、協会に放火したり、本気なんだなあ。政治的な抗議ではなく、宗教が攻撃対象ということか。このドキュメンタリーでも、悪魔崇拝とかキリスト教との関係ということが指摘されているけど、ハロウィーンオタクが昂じるとヘビメタさんになっちゃうのかもしれない。文化的、宗教的にああだこうだ言うよりも、社会学的に分析した方がすっきりすることはすっきりするんだろうな。多分、ヨーロッパでは、極右政党と支持層はかなり重なるんじゃないだろうか。左翼のヘビメタってありえないと思う。極右ということは、多分、白人の低学歴・労働者階級層が典型的な支持基盤じゃないのか?っていうことなんだけども。もちろん、例外はいくらでもいるだろうし、こう言うと顰蹙買いそうだけど、統計を取ればある程度そういう傾向は出ると思う。でも、労働者階級というよりは、中産階級の変な子供が走るような気もする。
 このドキュメンタリーの中でも、「スミスを聞いている奴らなんかは、自分が賢いと言う幻想に酔っているだけだろ。ヘビメタは聞いている奴に、真の高揚感と連帯感を与えてくれるんだ!」というヘビメタ・ジャーナリストの発言が出てきたけど、これももろに極右っぽい。スミス云々はうまいこと言うなあ、と、スミス好きとしては苦笑してしまうけど。でも、結局、社会的・経済的には、一番搾取されていそうなんだけど。その怒りが政治的にならなくて、ガス抜きに向かってると言うことなんだろうな。根は良い奴だけど頭は悪い、みたいな。
 レイジ・アゲンスト・マシンのトム・モレロという例外も出てきちゃうから、それを言うと全部ここで言っていることひっくり返っちゃうけど、あの人も完全な例外と考えてもいいでしょ。
 「ヘビメタファンは一度ファンになったら、それは一生変わらない。去年の夏はあれがはやってたけど、今年はこれなんてことはない。」とか、「ヘビメタの人は好き嫌い、自分の主張がはっきりしている」とか、日本で言えば、矢沢永吉のファンなんだよなあ。そういうの、嫌いじゃないけど。ファン同士の連帯感とか結束も凄いんだよな。音楽が合言葉で即コミュニティが出来ちゃうとか。ものすごく古典的なんだけど、その一貫性とか、ファン同士は趣味や価値観が近いとか、なんか、一つの種族という感じで、確かにこれは文化人類学的な考察の対象になるのかもしれない。
 面白いな、ヘビメタさん達。馬鹿にしてる訳じゃないけど、やっぱり変なんだよな。本当に面白いな。