『監督・ばんざい!』:

北野武

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 かなり、来ている、煮つまってる、自殺的だ、と、評判の最新作、やっと見た。いやはや、まさにその通りで、自分的には面白かった。お客は全然入っていなかったけど。
 冒頭のCTスキャンの画像の患者名からして、Kenji Mizoguchi,Yasujirou Ozu,Syouhei Imamura,Akira Kurosawaというのをたけしがやるって、かなり微妙なギャグ、というか、映画評論家やシネフィルをおちょくっているのか、一体、彼らは何を考えていたんだろうな、見れるものなら脳味噌の中を覗いてみたい、と、半ば本気で思っているみたいで、どきっとさせられる。その病院で診断を受けているのが、タケシ君人形で、何ともシュール。
 このタケシ君人形はたけしの分身で、たけし監督はいつも持ち歩いていて、映画中映画の中では都合が悪くなるとこの人形に入れ替わってしまうという設定で、これが全編通じたネタになっている。実も蓋も無く言えば、現実逃避するための身代わりなのだ。
 映画が撮れないことについての映画といえば、フェリー二の「8 1/2」に始まって、ヴェンダースの「ことの次第」とか山ほどあるけど、これは映画が撮れないことについての映画なんだろうか。あれもだめだ、これもだめだ、といいつつ、結構面白いし、やっぱり、メチャクチャうまいんだよな。ギャング映画のところなんかでも、カツンカツンという爪きりの音を響かせながらカメラがパンするとことか、ほら、こうやってこの呼吸でとるんだよ、と言っているみたいで。普通の映画監督がこれ見たら、絶対、嫌みだなあ、と思うだろうな。忍者もそう。古井戸駆け上がるとことか、あそこの最初の殺陣のワイヤーアクションなんか立派なもんだよ。なんだか、もうこういうのやりかたわかっちゃったから、やる気しないと言っているようなところがある。まあ、それを言えば、「映画が撮れないことについての映画」を撮るような人ってみんなそうだし、でなきゃ、馬鹿だけど。
 うーん、なんなのだろう、この尋常ではない煮詰まり感。メチャクチャで面白かったけど、なんともいわく言い難い。