科学と浪漫(1)

My Life Between Silicon Valley and Japan
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/web_kikaku/u127.html

我々科学者の「ロマンティックな研究態度」が脅(おびや)かされているんだ、いやもう敗れてしまったのではないか。「トンボのように飛ぶ」にはどうしたらいいかを科学者は未だに解明できないが、遥か昔に飛行機を発明し、人類は飛行機会を得た。それと同じことが今「知性の研究」の分野で起きつつあるんだ。お前たち、ロマンティックな研究をいくらやっていても「グーグル的なもの」に負けるぞ、時代はもう変わったんじゃないのか。茂木は若い研究者・学生たちをこうアジった。「ロマンティックな研究態度」とは、物事の原理を理論的に美しく解明したいと考える立場のことである。

これを読んで反射的に思い出した事例。

  • 四色問題のコンピュータによる解決
    • 四色定理 - Wikipedia
    • 124年間にわたって証明ができなかった「四色問題」(全ての地図は4色で塗り分けることが出来るという定理)二対して、1976年にコンピュータによるしらみつぶしの証明が与えられた。
  • ゲノム解析
    • クレイグ・ベンターのセレーラ・ジェノミクス社は、2000年4月に「ヒトゲノム全塩基配列解析を終了した」と発表した。彼らの解析手法は、とにかく遺伝子をぶちぶちと小片に細切れにし、これを力ずくで自動解析装置で解析し、データ処理により配列を確定すると言ういわゆるショットガン法である。
  • 加速器による素粒子研究の行き詰まり
    • 実験素粒子物理学での研究の基本ツールは加速器だった。さらに小さな素粒子を実験的に発見するためには、さらに大きなエネルギーで粒子を加速して衝突させてやればよい。しかし、このさらに大きなエネルギーを与えるためには加速器を大型化しなければならなくなり、建設費が巨額になり行き詰まった。
  • アンディ・グローブ半導体バイスの教科書
  • 中村修二の青色半導体レーザ
    • GaN青色半導体レーザで有名な中村修二のKey Success factorは、MOCVD装置を自分で改造することが出来たからだった。
  • ガウスのレンズ設計
    • 大数学者・大物理学者のガウスは、レンズを自分で設計することで天文学上の功績を残した。

 茂木氏のいわんとするところは分かるけど、それって滅茶苦茶ロマンチックなこと言っているなあ、と半ば唖然としたと言うのが正直なところ。科学だって、実はいかに投資していかにツールを手に入れるかの勝負であることも多い。「紙と鉛筆」的な(その代わりコンピューターか)美学がまだ生き残っているんなら、コンピュータ・サイエンスって、実はとんでもなくロマンチックな世界だったんだなあ。でも、ビッグ・サイエンスにはビッグ・サイエンスの浪漫もあるわけだし。