相続人:監督ロバート・アルトマン

1997年作品
原題 THE GINGERBREAD MAN
上映時間 114分
製作国 アメリ
初公開年月 1998/10/
監督: ロバート・アルトマン
製作: ジェレミー・タネンボーム
原作: ジョン・グリシャム
脚本: アル・ヘイズ
撮影: クー・チャンウェイ
音楽: マーク・アイシャム
出演: ケネス・ブラナー
エンベス・デイヴィッツ
ロバート・ダウニー・Jr
ダリル・ハンナ
ロバート・デュヴァル
トム・ベレンジャー
ファムケ・ヤンセン
メエ・ホイットマン
ジェシー・ジェームズ
トロイ・ベイヤー

 うーん、濃いなあ、アルトマンは。ロバート・ダウニー・Jrの私立探偵が始めて登場するなんていうことのない場面でも、弁護士事務所の受付やスタッフの女の子に思い切りちょっかいを出して、女の子にドン引きされて、その場にそぐわない雰囲気をプンプン漂わせて、主人公の弁護士のオフィスに入ってくる、なんて、そんなところだけでも、もうアルトマンっぽくてわくわくしてしまった。これは得意の群像劇ではないけれど、アルトマンの映画はこういう普通の映画でも、その画面に出ている役者が、その場面の主人公という撮り方なんだよな。それがどういう仕掛けによるものなのかは分からないけれど。役者がみんなアルトマンの映画に出たがる(どうせ大した興行収入でもないのに)というのもわかるような気がする。
 R指定ということだけど、この内容だったら、R指定にならないような映画にすることだってできただろうけど、おこちゃま相手にして妥協する気はないという心意気か。ことの発端のところも、主人公がパーティーの後、車で彼女を家に送ってきたところでも、ズブ濡れだから必然性はあるけど、さっさと彼女が脱いじゃってあれよあれよといううちに、なるようになっちゃうんだよね。お約束なんだから、つべこべいわずに、さっさとやっちゃいますって感じで、こういうテンポがすごく気持ちが良かったりする。
 盗まれた車が帰ってみると家の前にあって、家の中ではテレビまで御丁寧についている、なんていうのも何とも言えず訳わからなくて怖い。猫が首を吊られているというのも始めて見たかも。あのおやじの精神病院脱走のシーンも怖いんだよな。ベッドシーンと交互に混ぜ合わされているので、あのヒッピー軍団が襲ってくるのか?という気がして。これはこういう恐怖感を出すために狙ってやっているんだろうか。
 子供たちが誘拐されるところも、その前のドライブインで尾行されているのが観客には分かっているので、「おい、おい、長電話してるんじゃないよ、危ない、危ない!」と思って見ているのだが、そこはなんとか無事にやり過ごしたのでほっとすると、そのすぐ後に、モーテルでトラックが子供たちのいるモーテルの一室への視界をほんの一時さえぎり、トラックが行ってしまうと子供たちはいない、というこの手際の見事さ。一度安心させて、そのすぐ後にやってしまう。この辺の観客の心理を見透かした手際の良さがいいんだよな。
 こうして書いてしまうと、何でそんな古典的な黒板消し落としみたいな手にひっかかっているんだよ、俺?と思うんだけど、詐欺とか手品というのは、大体そういうもので、実際に見ていると100%絶対にだまされるんだよな。
 やっぱり、アルトマンはおもしろいと思う。こういうフィルムノワール風のサスペンスというのは、彼にしてみれば珍しい作品だけれど、それだけに彼の映画のスタイルが出ていて興味深かった。エキセントリックな人物の群像劇とか、ブラックユーモアとか、そんな彼の映画の枕詞や安直なコピーの範囲外の映画だけど、面白かった。
 と書いてきて、Allcinemaの感想文を読んでみると、酷評の嵐。
映画 相続人 - allcinema
要は、ここでみんなつまらなかったといっているところが、面白いところなんだよね。あの主人公の身勝手さなんか、いかにもアルトマンっぽい。警官の正当防衛を認めさせずに裁判に勝ってしまい後でしっぺ返しをくらうとこなんか、本当はもっとギャグにしたいところだけど。そこは、脚本がジョン・グリシャムなので顔を立てたんだろうか?Embeth Davidtzもセクシーだと思うけどね。トム・ベレンジャーだって、ああいうひねくれた悪役やるのってきっと楽しいんだよ、多分。役者って。
 何でそんなに共感したいのかなあ。共感出来ないような人間見てる方が面白いと思うけれど。そこがアルトマンの映画の面白さの本質だと思うけどな。