「オフサイド」東京フィルメックス@有楽町朝日ホール

オフサイド」/イラン/2006年/88分/監督:ジャファル・バナヒ(2006年ベルリン映画祭銀熊賞

 これは最高に面白かった。こういう映画を見つけられるから、東京フィルメックスのような映画祭に足を運ぶのを止められないのだ。掘り出し物。これは公開すれば、ヒットするのではないか。
 イランではサッカー場は女性禁制である。しかし、ドイツワールドカップ出場がかかったバーレーン戦、少女たちは何としてでもスタジアムに入り込もうとするが、警備の兵士に掴まってしまう。。。という話。少女達の脱獄物とも言えるし、イランに於ける女性の人権とは?という見方もあるのかもしれないが、そんな分類や政治なんか吹っ飛ばされるくらい面白いのだ。
 イランの女の子がサッカーを見に行くこと。それは、大変な勇気が必要な冒険なのだ。なにせ、ばれれば逮捕されてしまうのだから。彼女たちは帽子を被り、男装をして、ペインティングをして、スタジアムに潜り込もうとする。ある者は軍服をどこかから手に入れさえし、役員席にまで入り込むが、階級章がいい加減でばれてしまう。掴まったもの達はスタジアムの入場ゲートの脇の柵の中に集められてしまう。彼女たちは警察に移送されるが、その途中で試合は終わり、イランはワールドカップ出場を決める。そして、……。という話である。
 新聞をいくら読んだって、ニュースをいくら見ても、イランの人たちがどんな暮らしをし、どんなことで苦労し、どんなことで喜び、どんなことで悩んでいるのか、なんて分かりはしない。そんなことすら知りもしないのに、報道で我々は様々なイメージを植え付けられてしまう。そして、実際には彼らがどんな人かも知らないのに、あの国はどうだとか、そんなことを知った気になっている。映画だって、なにがしかの事実を下に作られてはいても、結局はフィクションである。にもかかわらず、やはり人が演技をして命を吹き込むことで、映像には偽りきれない真実が露呈する。こうして1本の映画を見ることの方が、100時間のニュースを見ることよりも、重要なことだと思う。