ストーン クリミアの亡霊(88分・35mm・白黒)

Камень

黒海沿岸にある、博物館となったチェーホフの家で宿直する青年が、夜ごと訪れるチェーホフの亡霊と親交を深めてゆく。

’92(監)アレクサンドル・ソクーロフ(脚)ユーリー・アラーボフ(撮)アレクサンドル・ブーロフ(美)ウラジーミル・ソロヴィヨフ(出)レオニード・モズゴヴォイ、ピョートル・アレクサンドロフ、ワジム・セミョーノフ

 これを読み飛ばしてタイトルくらいしか見ないで行ったので、「ああ、これが亡霊さんなのね」位に思ってみていたら、前半結構睡魔に落ちた。でも、これは普通落ちるし、そういう見方をする映画かもしれないと言う気が半分しているので、後悔はしていない。予備知識無しで見たら、あの亡霊が誰なのかは分からない。分かる人には当たり前なのかもしれないけれど、彼をチェーホフと示す場面もないので、私のような大馬鹿者はそれを理解せずに見ることになるが、大馬鹿者にはその方が良い。
 とにかくローキーの画面がすごい。『吸血鬼ノスフェラトウ』を思い出した。人間とは、フィルム=世界に焼き付いた影でしかないといわんがばかりの画調。それは、広島や長崎の爆心地近くに残された影に似ている。
 このコントラストに加えて、世界を平行四辺形に投影したかのような歪んだ画面。多分あれは、撮影レンズの前に特注のアナモルフィックプリズムでも入れているんじゃないだろうか?それで、そのユニットは回転出来るようにしてあるんではないか?デジタルの画像処理をやって作った絵ではない。
 それから、あの緩慢な移動。遅すぎてスピードだけならほとんど気がつかないが、微妙に揺れるので、あ、移動してる、と気がつくのだが、あれがまた気が遠くなる。
 ヒットラーもそうだが、何故、こうした過去のアイコンをテーマに据えるのだろう?世紀末の仕事と言うことなのだろうか?それにしても、不気味なほどに人気がない。チェーホフと青年以外は街路でチェーホフが頭をなでた子供くらいではないのか。まるで、人類は滅亡してしまい、亡霊だけが歩き回るのが今の時代だとでも言わんばかりだ。、このただ事でない不気味さは何なのだろう。こんなに涼しくなる映画はそうそうあるものではない。何かを見たというよりも、何か見たこともない何かを経験してしまった。それが何かはわからないまま、また、次の彼の映画を見に行くことになるのだろう。

太陽光発電の価格,費用,補助金など!太陽光発電なう
佐野史郎HP:橘井堂/目次