「私家版鳥類図譜」諸星大二郎

私家版鳥類図譜 (KCデラックス モーニング)

私家版鳥類図譜 (KCデラックス モーニング)

 近頃すっかりバカになっていて、漫画しか読めない。なので、まずは、お利口な漫画を読んでリハビリするのだ。2003年の本だけど、見のがしていたのを、たまたま見つけた。
 いつものことながら、唖然とする面白さ。お題は「鳥」で、鳥を巡る短編集になっている。鳥とは何かといえば、それは空を飛ぶ生き物な訳で、これらの短編ではいずれも鳥は空の向こうの異界とこの世界を行き来する存在として描かれている。と言えば、もうこれでいつもの諸星ワールドが次々と広がっていくことは分かるだろう。
 天使もその意味ではこの「鳥」の一つとなるだろう。勿論、それがいわゆる天使だなどとは我々は期待していないし、それは禍々しい生き物として現れるだろう。姿も見えないような巨鳥と言うのも、いかにも中国の奇譚にありそうな話で、地上の近くを飛び回るにすぎない小鳥たちの大騒ぎは、抱腹絶倒なものに違いない。地下の世界に生きるもの達の中に紛れ込んだ鳥は、飛ぶ空が無い世界では、ただの奇妙で不格好な珍獣としか思えないだろう。
 尽きることのない奇想、蛇のようにうねりながら万物に変貌を遂げるあの独特の線で描かれる肉感的な絵、諸星大二郎大先生健在である。