「輝ける闇」:開高健

輝ける闇

輝ける闇

 読了。圧倒的な濃密さ。いきなりジャングルの中から始まり、ジャングルの中で終わる。何故ベトナムに行こうと思ったのか?という説明はほとんどない。「匂い」を書きたかったのだと言うが、それは余りにロマンティックに響く。この小説が書かれた当時には、彼のベトナム行きについては、様々な形で報道されていたのだろうから、当時はベトナムに行く理由をここに書かなくとも、読者は既にそれを予備知識として持っていたのかもしれない。
 ベトナム反戦の声が日本でも高まっている時代に、従軍特派員としてベトナムに行こうというのは、狂気の沙汰だ。今読むと、イラクで人質になった日本人や虐殺されたアメリカ人のことが当然ながら、頭に浮かぶ。開高健朝日新聞の特派員としてベトナムに行っている訳だが、彼の部隊はここで描かれている襲撃を受けて200人中生き残ったのは17人だけで、一時は彼の行方不明が報じられている。
開高健記念会
 三島由紀夫は「実際に行かずに想像で書いたのなら、すごいが。」と言ったらしい。三島由起夫らしい発言だが。でも、仮に現地に行かずにこれが書ける作家というのがいたら、きっと天才だろうが、彼の人生はとてもつまらないものなのではないだろうか?そして、ならば三島は、実際に切腹せずに切腹を小説に書こうとは、何故思わなかったのだろうか?
 行動したから偉いのではなく、行動せざるを得なかったから、小説を書かねばならなかったから、素晴らしいのだ。多分、何故か?と言うその理由が明確に述べられるのなら、それは小説にする価値はない。