ひかりごけ 武田泰淳

ひかりごけ (新潮文庫)

ひかりごけ (新潮文庫)

一、たんなる殺人。二、人肉を喰う目的でやる殺人、三、喰う目的でやった殺人の後、人肉は食べない。四、喰う目的でやった殺人の後、人肉を食べる。五、殺人はやらないで、自然死の人肉を食べる。
  • 昨今の日本の世の中では、飢えという問題に切実さを感じられないが、それでもこの問題には胸に迫ってくる何かがある。死んでしまえば、人間は人間では無く、ただの肉なのか?人肉を食べてしまっても、人間は人間なのか?死んでしまったものを食べれば生き延びられるかもしれないのに、喰わずに死んでいくことが正しいのか?もし、「自分を食べて生き延びてくれ」と遺言されたらどうすればよいのか?
  • ES肝細胞など最近の生物学が突きつけている問題も、これと同じところがあるのではないか?そのまま普通に育てれば人間となるものを、初期段階で実験に提供し、その結果作られた薬で多くの人々が生き延びることになっても、それは、人の肉を食って生き延びることとどういう違いがあるのだろうか?
  • 一方で、世の中のモラルはこれ以前の段階にまで後退しているという気もする。何故、人を殺してはいけないのか?という問いかけが成立する時代なのだから。