「甘粕大尉」 角田房子

甘粕大尉 (ちくま文庫)

甘粕大尉 (ちくま文庫)

「人間というものは、一度別れたら再び会えると思うことは間違いなのです。一度別れたら、永久に会えないと思うのが正しいのです。そのつもりで私の言葉を聞いて下さい。
民族協和といいながら、協和会の職員が仲間内で喧嘩するようなことで、どうしたら民族協和ができますか!終り」(甘粕正彦、於満州、昭和十三年七月二十八日)
  • 関東大震災時に憲兵隊で大杉榮虐殺に関与した右翼テロリスト、満州国建国に暗躍、のちには満映理事長、終戦時に自殺。大杉事件の真相、そして、彼の足跡をたどるノンフィクション。
  • 大正時代から第二次大戦までの近代日本の深い闇。何故、こんなにファシズムの話は面白いのだろうか。こういう言い方も、不謹慎ではあるが。単純な右翼にも左翼にも興味はないけれど。甘粕というと、「ラスト・エンペラー」の坂本龍一ベルトルッチが「悪人は欠陥がなければいけない」といって無理矢理隻腕にされたあの役柄を連想してしまうのだが、直情直行型の人間ではあっても、決して思慮に欠ける訳ではない彼の内面の複雑さに思いを引きつけられてしまう。特に、大杉事件後のフランス行き、そして、この本では決して多くが明らかにはされていない満州建国に当たっての暗躍。この男は何を思いながら激動の時代を生きたのだろう。もう、今となっては、大杉事件の真相は明らかにされることもないのだろう…。