「殺陣師団平」”生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)”@東京国立近代美術館フィルムセンター

104分・35mm・白黒
金も学もなく、髪結いの妻・お春に支えられながら、歌舞伎仕込みの殺陣一筋で生きてきた市川段平(月形)が、新国劇澤田正二郎(右太衛門)の目指す新しい剣劇に魅せられ、生涯をかけて挑む。二度目の結婚に失敗したばかりのマキノが思い描く、過剰なまでに理想化されたお春を、山田が生身の女として見事に演じた。マキノは、本作から「正博」を「雅弘」に改名。
'50(東横映画)(原)長谷川幸延(脚)黒沢明(撮)三木滋人(美)堀保治(音)大久保徳次郎(出)市川右太衛門月形龍之介山田五十鈴杉狂児、月丘千秋、進藤英太郎横山エンタツ加藤嘉、原健作、郄松錦之助

上映会情報生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)
 バックステージものではあるけど、マキノのこういう人情ものはあんまり見たことはなかったので、新鮮だった。さすがに味付け加減が良い。人間味がこってり出ているのに、くどくない。女房も団平も死ぬシーンなんて絶対やらないからなあ。
 こういう事をやらせると、上方文化って、関東の数枚上手。マキノはやっぱり京都、関西の文化なんだなあ。かと思えば、戦後のこと考えると、まるで東京の下町文化から出てきたみたいな映画を高倉健で作っていた訳だ。う〜ん。結局、江戸っ子なんて、したたかな上方文化で育ったマキノにとっては、いかようにも操れるものだったのだろうか。この辺のこと、誰かちゃんと論じてくれないかな。
 多分、あの殺陣のつけ方なんか、マキノ流なんだろうな。家の奥行きとか、構造とか、そういうとこもさすがにうまい。
 でも、題材がマキノっぽいかというと微妙。それでも、このクオリティ。この特集はどれ見ても外れはないってことだろうな。
 頭のクレジット見てて驚いたけど、これ、脚色が黒澤明なんだよな。それがやっぱり効いているんだろうか。微妙にマキノっぽくないまじめな感じは黒澤明のせいにすれば良いんだろうか。そう考えると、簡単に納得出来るんだけど。この年、黒澤明は「醜聞」と「羅生門」を公開。そして、羅生門で1951年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。黒澤がマキノを脚色するというのは、1951年以降有り得なかっただろうな。そういう意味では、なかなか面白い。
 津川雅彦のお花がロビーに飾ってある。何かいいよな。素直にそう思う。

「野戰軍樂隊」”生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)”@東京国立近代美術館フィルムセンター

67分・35mm・白黒
敗戦色濃くなるなか、情報局募集による「国民映画脚本」をマキノが脚色。戦意高揚映画ながら音楽映画としても楽しめる。軍楽少尉・園田(佐分利)が野戦軍楽隊を組織するために、中国駐屯のある部隊を訓練することになるが、音大出の菅上等兵(上原)と佐久間上等兵(佐野)はことごとく衝突する…。歌自慢の中国娘を演じた李香蘭は本作を最後に満映を退社。

'44(松竹)(原)田辺新四郎(撮)竹野治夫(出)小杉勇佐分利信、三原純、上原謙佐野周二李香蘭杉狂児、三井秀夫、槇芙佐子

上映会情報生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)
 やっとマキノ特集1本目。軍隊の馬のトレーラーが、もう西部劇。李香蘭の歌うシーンのクレーンなんか感動もの。歌だけでセリフもないけど、スターだから、もう強引にしっかり見せ場にする。この辺の豪腕も楽しい。それを成り立たせてしまう李香蘭もスターだなあ。
 軍楽隊の演奏シーンの影の使い方とか、前線の移動のシーンとか、満州というのは、当時の映画人にとっても新天地だったわけで、敗色濃い中で、苦しい状況でも映画作るのは楽しかったんだろうなあ。俺も西部劇が作れる!満州で撮った映画って、そういう気持ちが伝わってくるんだよな。
 クラリネットで赤ん坊が泣きやんで「これが音楽の力だ」と言われて佐久間上等兵が感動して頑張りだしちゃうとことか、軍楽少尉が「佐久間上等兵、二歩前へ、独奏」なんて言うところとか、実に、実に、マキノ節だなあ。「未経験者と経験者のペア、お前達は夫婦だ!」なんて、もうホモソーシャルそのもの。
 いかにも戦時中の映画で、敵は米英、中国の皆さん、仲よくしましょうと、最前線で爆撃の雨の中で満州ローズみたいな女性がアナウンスするバックで演奏するところなんか唖然。情報局の国威発揚映画というのはこういうものだったのか。

「呉清源 極みの棋譜」監督:田壮壮@シネマスイッチ銀座

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呉 清源 | 棋士 | 囲碁の日本棋院
呉清源〜極みの棋譜〜 - Wikipedia

上映時間 107分
製作国 中国
公開情報 劇場公開(エスピーオー)
初公開年月 2007/11/17
[監]田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)
[原]呉清源 
[脚]アー・チョン 
[衣]ワダエミ 
[出]チャン・チェン  柄本明  松坂慶子  伊藤歩  仁科貴  南果歩  野村宏伸  シルビア・チャン 
[制作データ] 2006中/エスピーオー
[上映時間] 107分

 金曜くらいまでみたいなので、あわてて見にいく。モーニングショー11時からだったけど、15分以上遅れて入る。まあ、見逃すよりは。。。まあ、静謐で朝から見るのが気持ち良い映画ではあった。
 大体、囲碁を映画にするというのが難しい話だ。しかも、寡黙で内向的な人の話だし。囲碁についても詳しくないし、呉清源についても予備知識はなしだったけど、興味が湧いた。彼は子供のころから囲碁の才を認められて日本につれてこられる。この辺は遅れたので見逃したんだけど。そのうち、戦争が始まる。病気になる。帰化しているんだけど、病歴もあって兵役は不合格。で、宗教に走る。本因坊戦だかなんだかもすっぽかす。2年くらい、宗教にはまり失踪状態。教祖に教団の宣伝のために、囲碁に復帰しろと言われて復帰。壮絶な打ち込み十番勝負。相手が鼻血を出しながら気絶しても、まったく気にもとめず、碁盤の上の世界に遊ぶかのように石を眺め続ける。やがて、時は流れライバルたちも世を去り、彼も引退を迎える。。。すべて、淡々と流れ、時折彼の回想の言葉が画面に重なる。
 この淡々と流れる静けさがただものではない。チャン・チェンの背筋の伸びた物静かで折り目正しい姿がいい。この静かな世界の背後には激しい時代や人々の心が流れていたけれど、それを感じさせつつも、一貫した静けさが作品全体を支配している。