東京フィルメックス・ジャン=ピエール・メルヴィル特集上映:「フェルショー家の長男 - Magnet of Doom」

1962年/102分 *日本初上映
出演:J・P・ベルモンド、シャルル・ヴァネル、S・サンドレッリ

 元ボクサーのJ・P・ベルモンドが銀行家の秘書になり、その銀行家が逮捕を逃れるためのアメリカへの逃避行に同行するが、爺につきあうのが嫌になるが、という話。
 フィルムの状態は変色していたので良くなかった。こういう古いカラー映画って、可哀想だなあ。むしろ、白黒映画の方がノイズがあっても、原形をとどめている。それでも、映画の面白さは失われてはいない。
 このベルモンドも酷い男で、恋人の母親の形見まで質に入れようとした挙げ句カフェに置き去り、爺に対しても平気で嘘はつくし、まあ、これがベルモンドじゃなきゃ反吐が出るような酷い男の話。それが、何故こんなに面白いのか、というのが、メルヴィルメルヴィルたる由縁。
 こんなにアメリカっぽいフランスの映画監督って、他に思いつかんなあ。でも、同時にすごくフランス的なんだ。このピカレスクなロード・ムーヴィー見ていると、言葉の上では矛盾に見えるそのことが、メルヴィルの正当性なのだと確信できる。これがメルヴィルの最高の一本だと言うつもりはさらさら無いし、メルヴィルin USAというなら「マンハッタンの二人の男」を再見したいが、こうした作品においてまごう事なき自分の刻印を刻むメルヴィルは、国籍以前に映画監督なのだと思う。監督の才能は、最高傑作同様に駄作レベルの作品においても、光り輝く。