「天才! 成功する人々の法則」: マルコム・グラッドウェル

天才!  成功する人々の法則

天才! 成功する人々の法則

 読了。

誰でも、持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っている物までも取り上げられる(マタイによる福音書25・29)

 カナダのプロ・アイスホッケー選手の40%は1〜3月生まれ、30%が4〜6月生まれ、20%が7〜9月生まれ、10%が10〜12月生まれなのだそうだ。カナダでは小学校の入学年齢の区切りが1月1日。従って、同じ1年生でも1月1日生まれの子供は、12月31日生まれの子供よりも1年分の身体的アドバンテージがある。子供のうちはこの差はすごく大きい。アイスホッケーも英才教育制度があるので、どうしても、英才教育を受けるのは早く生まれた子供の方がチャンスが大きい。そうして英才教育を受ければ、さらにその差は広がっていく。その積み重ねが、結局、プロに到達するまでつながっているのだ。
 これが、マタイ効果

ビル・ゲイツ 1955年10月28日
スティーブ・ジョブス 1955年2月24日
エリック・シュミット 1955年4月27日

 シリコンヴァレーの大物の誕生日は1955年前後。この時期に生まれて、ちょうど良い時期に集中的な訓練を受けていた者だけが、とてつもなく大きな成功のチャンスを持っていた。大体、なんでも1万時間の訓練が必要。時代の変わり目で新しい時代に適応できるだけの訓練を受けているためには、これより遅くても早くてもいけなかった。これが1万時間の法則
 この「1万時間の法則」というのは、ちょっと良くない。何かスキルを身につけるには、そのくらいの訓練が必要だという意味では実用的なのだが、その前提条件の方がまずクリティカルだからだ。1955年よりも早くても遅くても、ビル・ゲイツは1万時間の徹底的なプログラミングのトレーニングを積むことは出来なかった。
 こういう具体的な例を次々と挙げながら、この本が論じているのは、一言で言えば、環境や時代が個人の成功や失敗にいかに大きな影響を持っているか、ということだ。その意味では、これはビジネス書としては、安直なハウツーを求めるような人には何の役にも立たない本だと言える。時代や環境をいかに読みとらえるか。でも、それはしばしばどうにもならない運命的なものだ。
 とはいえ、大韓航空のチーフ・パイロットと副操縦士の上下関係の改善により、コミュニケーション不足が解消され、トラブルの連鎖を止めることが出来るようになり、墜落事故を減少させることが出来たという話も出てくるが。それも、やはり外国人が大韓航空に乗り込んだ結果だったようだ。
 こういう時代や環境・文化などの運命的なことが、実は決定的なんだな、というのは、全く同じようなことを最近常々思っていたので、本当に共感。会社だってそうなんだよな。たとえば、シャープ。すっかり、日本国内では液晶と言えばシャープという感じになってしまったが、シャープは後発であったため自社でブラウン管を製造できなかった。だから、他社からブラウン管を買ってテレビを作るしかなかった。だから、ずっと「いつかはこれでテレビを」と思って液晶をしつこく意地になってやってきた。10年前は、誰も液晶がここまで大型化できるとは思っていなかったし、ここまで画質が向上するとは思っていなかった。シャープ自身ですら、想像できなかっただろう。しかし、彼らには選択肢がなかったから、迷いがなかった。
 そういう運命が全てを決めるとは思いたくもないし、それを克服する方法もあるのだろうけれど、こういう運命的なものがどれだけ大きな力を持っていて、世の中の様々な分野の帰趨を決めていることか。これだけ圧倒的な具体例を、実に説得力を持って提示してくれるのは、いかにもアメリカ人らしい。ここから色々な理屈をああだこうだ言うのは、山ほど出来るけど、逆にそれを読者に委ねて、滅茶苦茶面白い具体例をひたすらあげて、そこから自然と彼のメッセージが言わずもがなに浮かび上がってくると言うのがすごい。久々にこれだけ面白いビジネス書を読んだな。