「トランジスタ・ラジオ」

 清志郎が亡くなったことについては、信じられないし、何を書いて良いのか分からない。律儀なファンでもなかったけれど。でも、中学生から高校生の頃を振り返ると、頭の中でBGMに流してしまうのは、やはりこの曲だ。

授業をサボッて
陽のあたる場所に いたんだよ
寝ころんでたのさ 屋上で
たばこのけむり とても青くて

内ポケットに いつも トランジスタ・ラジオ
彼女 教科書 ひろげてるとき ホットなナンバー
空にとけてった
ああ こんな気持
うまく言えたことがない ない

ベイ・エリアから リバプールから
このアンテナが キャッチしたナンバー
彼女 教科書 ひろげてるとき
ホットなメッセージ 空にとけてった

授業中 あくびしてたら
口がでっかく なっちまった
居眠りばかり してたら もう
目が少さく なっちまった
ああ こんな気持
うまく言えたことがない ない

Ah 君の知らない メロディー
聞いたことのない ヒット曲
Ah 君の知らない メロディー
聞いたことのない ヒット曲

 そう、iPodじゃねえ!Walkmanじゃねえ!内ポケットはいつもトランジスタ・ラジオなんだよ!
 それがどういうことか。あの頃音楽は、iTunesでポチッとすれば手に入るものでもなければ、CDをPCでリッピングして聴くものでもなかった。まず、音楽は空からやってくるものだった。ラジオをつけるとどこかからやってくるものだった。天から降ってくる不思議な聖なるものだった。空からやってきて、空に溶けていくものだった。そんなものをうまく言えるはずもない。うまく言えたことがない、と言うしかなかった。そのことを吐露してくれただけで、これは自分の気持ちを歌ってくれた歌だと思った。みんな、そう思った。これは、自分の気持ちを歌ってくれた歌だと。自分の歌だと。自分たちの歌だと。
 彼女が教科書を広げているとき、そんな天からのホットなメッセージは空に溶けていった。何故、みんなこの天からの音楽が分からないのだろう?何故、君は知らないのだろう?何故、君は聴いたことがないのだろう?
 こんなことが何故なのか、うまく言えたことはなかった。今でも、うまく言えない。きっと、死ぬまでうまく言えない。もう、誰もこれ以上うまく言えない。でも、僕はあなたの言う通りだと思った。あなただけは僕と同じ気持ちを分かってくれるのだと思った。僕はあなたの気持ちが分かるのだと思った。みんなそう思った。その気持ちは、あなたが死んでも何も変わらない。