「赤と黒」

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)

 ちゃんと書けなかったので、少し、思うままに。
 この作品の副題は「1830年代史」なのだけれど、それはフランスでどういう時代だったかというと、ナポレオン失脚後の王政復古の時代。王制が滅び行くことは流れとしては見えていた。それはジュリアンが仕えるラ・モール侯爵の目にも映っていた。しかし、その後を担う共和制を支える主体は未だ成熟していない。滅び行く貴族、そして野心に浮かされる平民。ナポレオンへの心酔を吐露すれば、直ちに危険分子と見なされる時代。そんな時代に7月革命に前後して、この小説は執筆されたのだそうだ。まるで、68年のゴダールだった訳です。
 革命というと、一晩ですべてがひっくり返って、その日から別のルールの世の中が始まってしまうかのように思えてしまうけれど、これを読んでいると、そんなに簡単なもんじゃねえよ、というのが良く分かる。革命を起こすことは簡単だが、その新体制を維持するのは革命自体より難しい。革命勢力側が権力を掌握するまでに成熟しなければ、混乱は終わらない。
 そんな移ろいゆく時代の中で、旧体制の側の素朴で純粋なレナール夫人や、滅び行く貴族階級の最後の鬼っ子とでもいうべきラ・モール侯爵家令嬢のマチルドを、新しい世代の平民出身のジュリアンは誘惑する訳です。多分、これより前の時代でも後の時代でも、こうした身分間の恋愛は成立しないのでは。その意味で、この恋愛を政治と独立な次元の話とすることは出来ない。そういう時代にこの小説は書かれた訳です。 中国の文化大革命にしても何でもそうですが、好き嫌いで政治から逃避することは不可能。人間の全ての行動のフレームを規定する政治の怖さ。
 それにしても、マチルドが妊娠してから後の部分は、思わず一気に読んでしまったな。