「茄子」 上、下: 黒田 硫黄

新装版 茄子 上 (アフタヌーンKC)

新装版 茄子 上 (アフタヌーンKC)

新装版 茄子 下 (アフタヌーンKC)

新装版 茄子 下 (アフタヌーンKC)

 茄子、茄子、茄子、茄子ばかり出てくる、どうでも良いような話が何でこんなに面白いのか、良いのか?すごい。うまい。良い意味で、文学だなあ。でも、ドライでからっとしているのが気持ちいい。
 何がこんなに良いんだろう?と考えても、まあ、簡単に言えないんだけど、とにかく絵力がハンパない。ひげメガネのおっさんが電車に乗ってビールと冷凍ミカン買って電車降りて、それで3ページ。普通1ページ持たない。弁当が見開き2ページだったり(笑)。でも、これだけ書き込まれていると、これで引きずり込まれてしまうから不思議だ。筆タッチのこの書き込みが何とも言えない。書き込まれているようで、すっきりしている。これ以上やると、書き込みを誇示するようでうっと惜しいというところの半歩前ではなく、一歩前という感じで、そこがこの人の品の良いところじゃないだろうか。
 オンナの子もかわいいんだけれど、色気がないのが不思議だ。女性でなくて少女、というより、草食系というより、なんだろう、性欲より食欲、花より団子、という気がする。この食欲へのこだわりがすごい。でも、情報グルメ系には絶対行かない。ちゃんと食べて生活して、という人間の基本的なところをしっかり書かないと気が済まない、という感じ。これだと、絶対テレビドラマになったりしないだろうなあ、という安心感すら感じる。でも、そういう食事のシーンをきちんと描ける人は、偉くなる、みたいな話も映画だかなんだかであったような気もする。考えてみれば、人間、毎日かなりの時間を食べることに使っている訳で。
 どの話の主人公も開放感のようなものを求めているのだけれど、それはどこか遠くにあるものとか、奪い取るものとか、そういうものではなくて、ふっと見える青空のような開放感。
 やっぱり、面白い。