「藤純子 引退記念映画 関東緋桜一家」:監督 マキノ雅広@NFC


101分・35mm・カラー
'72(東映)(脚)笠原和夫(撮)わし尾元也(美)富田治郎(音)木下忠司(出)藤純子鶴田浩二、郄倉健、片岡千惠藏、藤山寛美若山富三郎菅原文太待田京介木暮実千代嵐寛寿郎

 これは昔ビデオで見ていると思うのだけど、改めてスクリーンで見ると、やっぱり大満腹感。なにせ、この超豪華キャスト。
 最後の殴り込みの鶴田浩二が鬼哲を追いつめるところで、カメラが手持ちで揺れるのには驚いた。ああいう取り方って、任侠映画が終わって「仁義なき戦い」みたいな実録モノに移っていく前触れみたいに、今から見ると思えてしまうんだけど、実際はカメラを回す場所がなくてその場でやってしまった、みたいなことって、引退記念映画ではやらないような気もするし。あそこだけ、何だか凄く変な感じがしたなあ。でも、高倉健は去っていき、菅原文太が後を見送る、って余りに象徴的だよなあ。後から見るとそうとしか見えないようなものを作ってしまうのが、運命に選ばれた人の仕事なんだろうな。鶴田浩二の最後のセリフ、「ヤクザの最後なんてこんなもんだ」というのも、後から見ると、意味付けたくなっちゃうなあ。
 冒頭のシーンから、長門裕之が人力車牽いてきて、柳橋の袂で因縁付けられて、裾払いして、「やっぱりあっしじゃダメだ、姉さん!」で藤純子が登場、と、もうのっけから藤純子の為に作られた映画という感じで、こういうとこは本当に良いんだよな。分かっていてもやられてしまう。
 でも、これだけの超豪華オールスターキャストにすると、みんな見せ場作らなきゃいけなくて、むしろ、藤純子の見せ場や出番が減っちゃったんじゃないのかな。高倉健が登場するタイミングも、なんであんなに絶妙のタイミングなのか、もうお約束とはいえ、話が繋がらなくすれすれ。最後も、藤純子にばっさり仕留めさせればいいのに、健さん、ばっさりとどめ挿しちゃうし。
 美術も、これだけやるのは72年だともう大変だっただろうなあ。路面電車とか葬儀のシーンなんか、そこだけのためにもう張り切ってやってるなァ、と思ったなあ。でも、そこはやっぱり意地だろうなあ。鳶の仕事は意地と我慢が肝心だ、というのは、もうそのまんまということなんだろうな。
 とはいえど、冒頭の踊りのシーン、賭場のシーンなど、お約束もきっちりやって、最後はカメラとスクリーンの向こうの観客に向かって「お世話になりました」っていうのは、理屈抜きに泣かされる。これがマキノ雅広自身の最後の映画でもあるということ考えると、やっぱり泣ける。こういう御客が見たいものを見たいように見せてくれて、それでやっぱり泣かされる。それが芸というもんなのだなあ。