”ヘンリー・ダーガー特集”:『美術手帳』
- 出版社/メーカー: 美術出版社
- 発売日: 2007/04/17
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ヘンリー・ダーガーは、幼い頃妹の出産時に母親が死んでから、父親に育てられた。妹は養子に出され、それ以来彼は会っていない。彼は幼くして擁護施設に入れられる。施設を逃走後、教会で清掃などの仕事に携わる傍ら、家で一人で莫大な量の奇妙な作品を人知れず制作する。この作品群は彼の死後、大家のインダストリアルデザイナーによって発見される。
その作品は、四方田先生の言葉を借りれば、「両性具有のセーラームーン」で、7人のおチンチンを持った少女が、子供を奴隷にする悪者と戦うというストーリーで、そのお話の中にはダーガー自身も様々な役割で登場する。まだだれもすべてを読破したものはいないというその長大なストーリーと合わせて、そのストーリーを描いた絵が山のように残された。これは、写真を元にしてなぞって書いた絵に水彩絵の具で色をつけたものだ。
戦闘のシーンでは、内臓が飛び出した子供の死体や切断された手足や裸など、アメリカの倫理コードに照らすと、日本以上に危険視されるような描写が多い。また、彼はデッサンなどの画家としてのスキルに自信も無かったことから、拾ってきた新聞などの写真をなぞって描いていたので、同じようなポーズや顔がいくつも増殖したように並んでおり、ポップアート的な奇妙な印象がある。それでも、独特の色彩感覚と構図の大胆さに目を奪われる。こうした障害者の作品は、アウトサイダー・アートとして、欧米では一つの分野として確立しているのだそうだ。
実も蓋もなく精神分析的に言えば、妹を含めて幼時にトラウマを抱え込んだ精神障害者の妄想が自閉症的に展開されているというだけなのかもしれない。彼の周囲で幼女殺害事件があったという説もあるらしい。そうした彼の悲惨な(と我々は考えてしまうが、実際どうだったのか、…)人生の伝説無しに、彼の残した作品を見ることは不可能のように思える。その意味で、彼の作品を先入観無しに見ることは非常に難しいのだ。
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こういう話を聞くと、欧米の文化的コンテクストの中では、彼の作品は我々が考える以上にスキャンダラスなものかもしれない。
- 作者: ジョン・M.マグレガー,John M. MacGregor,小出由紀子
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