イタリア映画祭(7)「カビリア」

カビリア [染色(一部彩色)版]
(1914年/3308メートル、16コマ/分=181分)
監督:ジョヴァンニ・パストローネ Cabiria (Giovanni Pastrone)


 イタリア映画祭もいよいよ最後。「カビリア」復元版。3時間の生ピアノ演奏つき着色サイレント映画。1914年の最初のヴァージョン、1931年のトーキーヴァージョン、世界中のアーカイブからプリントを集めて、マーティン・スコッセージの肝入りで進められたプロジェクトの成果である。勿論、劣化しているシーンもあちこちあるが、全体に驚くくらいのクオリティの復元ぶり。まずは、この復元のすばらしさに感動。こういう作業ってとてつもなく地味で根気と根性が必要だろうなあ。デジタルの力もあるだろうけど、まずは元のフィルム自体の保存状態が良くないとあそこまできれいにならないだろうな。個人的には、白黒映画は白黒で彩色しない方が好きなのだけど、それはやはり色を付けると画面が暗くなるからなんだけど、このくらいフィルムの復元状態が素晴らしいと、こう言うのもいいかなと思ってしまう。
 映画自体も勿論すばらしいものだった。この映画というと、もう淀川長治さんの本で、あの語り口でいかにすばらしかったか、という伝説を吹き込まれているわけで、多分大半の観客は「ヨドナガさんがあれほどに誉め称えていたあのカビリアを見るのだ!」という人たちだったんじゃないのかと思う。
 当然、これを見ると、この映画の影響を受けてハリウッドでD.W.グリフィスが作った「イントレランス」と比べてしまうのだが、やっぱり、後からアメリカで作っただけあって、「イントレランス」の方がセットはさらに巨大だと思う。ただ、こっちの方が美術は細かくて手が込んでいると思う。そこがいかにもイタリアという感じ。それを観ているだけでも3時間あっという間だった。ピアノ伴奏も、かなりこの映画をこなしているだけあって、これは本当に良かった。でも、3時間一人で弾きっぱなしと言うのは、本当に肉体的にも大変だと思う。
 豹とか象とか本物が出てくるのにはたまげた。当然、サーカスか何かで人になれていて、きっと食後で満腹のヒョウなんだと思うけど、あれは役者も命がけだ。戦争のモブシーンもやっぱり迫力あった。砦やクレーンの上からボロボロ人が落ちるけど、あれは絶対怪我人が沢山出ているんじゃないかと思う。今ならデジタルでチョイチョイとコピペしてできますよ、なんてやっぱり嘘だと思う。単純なスケール感はともかく、サイレント映画って、あの乱暴さって今じゃ許されないかもなぁ、ということを本当にやっている事がしばしばあって、そこはやっぱり今見ても面白いんだよな。
 エレナ山が噴火して、その山腹当たりで人が逃げまどうシーンも、あれは合成を使っているんだろうけど、良い具合に人が小さくて、何とも言えず迫力がある。メリエスなんかと同じで、こういう詩というのは、技術じゃないところがあって、最後の船の船首に天使が舞う合成なんて、やっぱり見事なんだよなあ。サイレント映画の演技って、歌舞伎みたいな様式化された一つの形態なんで(というほど歌舞伎知ってるわけでもないんだけど)、このジャンルを人間以前の何とか原人みたいに見なすのは間違っているんだと思う。
 マーティン・スコッセーシが冒頭で行ってたけど、なるほど、オープニングのシーンから移動撮影が入るんだよな。それも、結構さりげない移動なので参った。
 気になって調べたんだけど、「モレク神」というのは、ソクーロフの映画でもあったけど、要はキリスト教徒から見た異教の神で人身御供を要求する神のことらしい。これは、キリスト教徒から見た異教としての定義になっているんじゃないかという気はするけど。
モレク - Wikipedia

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