渡邉恒雄回顧録

渡邉恒雄回顧録 (中公文庫)

渡邉恒雄回顧録 (中公文庫)

 渡邉恒雄(以下ナベツネ)は戦後日本の最大の政治記者といわれる。「最大」であって「最高」とは言われないだろうが、ああだこうだ言われても、やっぱりビッグであることは否定出来ない存在と言うことだ。文庫になっていたので、読んでみたが、成る程なぁ、とは思わされた。
 新聞記者出身の政治家というのは結構いるけど、どういう経緯でそうなるんだろうなあ、と思っていたけど、これを読んでよく分かった。取材して、政治家の家に押しかけて上がり込んで、ああだこうだと言っているうちに、意見が一致して、電話一本でコンタクト出来るようになり、人脈が広がり、そのうちメッセンジャーボーイをするようになり、ああだこうだ偉そうなことを言うようになり、中曽根の入閣を頼み込みに行くようになったり、要は政界の裏のご意見番のようになっていったというのが、まあ、大体のナベツネのキャリアである。
 これって、ここまで入り込んで良いんだろうか?ジャーナリストとして。
 それから、これって保守として真っ当なこと言っている訳だけど、それって何でこんなに嫌われるんだろうか。当然、それは真っ当なこと言っている訳で、真っ当なことというのは、みんなわかっているけど、目を背けたいことな訳で、それを言わねばならんというのはもっともなのだが。現実問題としては、こうするしかない、から、こうだ、というのは、政治の議論としては正論だ。でも、カリスマといわれるような人は、多分、それを誤魔化す/騙す(意識的であるなしにかかわらず)マジックがあるのだと思う。その先にこうなるから、今はこうするのだとか。この人が言うから、そうかと思わせるとか。良くも悪くも(多分悪くも)、この人にはそういうのはない。それが、ナベツネナベツネの由縁だろう。
 だから、巨人って人気が落ちるんだよな。でも、真っ当なこと言っているんだよな、結構。否定出来ないけど、それでみんなの心を掴んで人を動かす力がある訳ではない。でも、実際に政策を決める立場の人間にしてみれば、そういう方向に行かざるを得ない。それが、この人が政界に影響力を持ってきた由縁なのだなあ。