『獄中記』: 佐藤優 (1)

獄中記

獄中記

 お正月から『獄中記』(笑)。今度はこれを読み始めた。当然、『国家の罠』と重複も多いのだが、これはライブドキュメンタリーの生々しさがある。それにしても、なんて楽しそうに生き生きと獄中を利用して勉強に励んでいるのだろう。実際は精神的にとてつもない苦行を強いられているはずなのだが、それをエネルギーに転化する著者の精神力に感服。
 でも、こういう環境って、ある意味うらやましい。望んで手に入れられるものでもないし、手にしたくはないが。でも、集中して勉強したいとか、外部の刺激を絶って何かをしたいという人のために、ウイークリー自発的監禁マンションとか、ホテルって、アリじゃないかな。当人の誓約書付で、食事差し入れ付で電話もテレビも無いマンションの部屋に監禁して貰う。その間集中して仕事や勉強に取り組む。三日くらいならやってみたいな、と思う。一週間やると、さすがに体に悪そうだが。
 無人島に持っていく1冊とか、CD10枚、という企画が良くあるが、拘置所に持ち込める本は、10冊だそうだ(検閲が入るし、洋書はダメ)。

未決拘留者が規則で房内で所持できる書籍・雑誌は3冊以内、宗教教典、辞書、学習書については特別の許可を取れば、追加的に7冊まで所持することができる。

後で、「拘置所に持っていく10冊」というのを考えておくと、いつか役に立つことが、‥‥、あって欲しくはないが。

最後の命令。小野田寛郎。ルバング等の残置諜者。‥‥‥ 残置諜者のごとく、忠実に命令を遂行している。

 二〇〇二年七月二日の部分より。そういえば、小野田さんって、陸軍中野学校出身だった。つまり、陸軍のスパイ養成学校である。子供の頃、彼の子供向けの手記を読んで、秘密基地ごっこみたいですんごくうらやましかったなあ。その小野田さんの今を調べると、今は自然塾を開いているそうだ。中野学校も3ヶ月くらいで卒業になっている。
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「残置諜者」とは、

敵の占領地内に残留して 味方の反撃に備え各種の情報を収集しておく情報員

という定義が説明されている。これは任務とは言っても、敵に見つかれば、捕虜となるくらいなら突撃するか自決せよと教えられている訳だし、とてつもなく残酷な任務だ。つまり、「退却するな。ここに残れ。帰ってくるな。でも、敵に掴まるくらいなら死ね。」と命令されたと言うことだ。この過酷な任務を彼は30年間遂行していた訳だ。中野学校が3ヶ月の研修で送り出していたのは、こうした「残置諜者」だったのだろうか。何とも胸の痛む話だ。それでも、多分、この人はそれでも国を恨んでいないし、国の責任を追及しようとも考えなかったんだろうな。絶対真似できないし、自分としてはその考え方を肯定したいとは思わないけど、その意志力を尊敬せずにはいられない。

 閑話休題。でも、さすがにこの本には、本当にやばいことは書かれていない筈。戦術ではなく、戦略を論じるべし、ということなのだろうが。これだけ続けて読んでいると、やっぱり佐藤氏に関しては基本的に信じて良いんだろうな、という気になってきた。