「ヴィオランタ」東京フィルメックス@有楽町朝日ホール、「天使の影」東京フィルメックス@有楽町シネカノン



 ダニエル・シュミット追悼上映。この前の回の新作「叫」の流れで、上映前に黒沢清監督が20分くらい座談形式でトークロカルノ映画祭で一度青山真治監督と一緒のときに挨拶したことがあるそうだ、でも、そのときは誰だかわからなかった(笑)、ちょうどダニエル・シュミットが日本に紹介されたころ、ヴェンダースなんかも同時期に入ってきて、云々という当人もいう通り「すいません、喫茶店の雑談みたいで」というノリのリラックストーク。奇想を紳士的な化けの皮の下で育んでいる、とかそういう点では、何か通じるところがあるような、ないような。何となく2次会にまで付き合ってしまった、という感じだろうか。
 それにしても、やっぱり良かった。ダニエル・シュミットは大体見ている積りだったけど、この2本は見てなかったと思うので、結局二本見てしまった。この二本以外は来年一月にアテネフランセユーロスペースでやるらしい。
 「ヴィオランタ」は、スイスの山が出てきた瞬間、ああ、この美しい風景の元で退廃や毒が生まれてくるんだよなあ、まるで、ダニエル・シュミットって、清らかな白い花をつける毒草だよなあ、そもそも、アルプスの山々の麓にあって永世中立国という建前の下でマネー・ロンダリングに精を出すスイス自体も清らかな毒草だよなあ、と思っていたら、本当に毒草の話だった。というと、まるで、すごい霊感でもあるみたいだけれど、たまたまこの「毒草を食べてみた」という本を今読んでいるというだけの偶然なのだけれど。

毒草を食べてみた (文春新書)

毒草を食べてみた (文春新書)

 この本がメチャクチャ面白い。すごい人を食ったタイトルだが、様々な毒草をめぐる話や薀蓄が書かれた本である。毒と薬は紙一重であるというのは良く言われる話だが、実際その通りで、使い方を知らないと毒になる。別に植物は「ちょっといい気になっている人間を殺してやろう」と陰謀を企てて毒草になる訳ではない。人が勝手に食べたり、触ったりして、植物の特殊な成分と化学反応を起こすだけの話である。人と植物の長い付き合いが様々な植物について語られるが、一つ一つの話が実に面白い。スイートピーやスズランが毒草だったなんて知らなかった。原始的なアヘンの製造工程まで親切に書いてある。著者の略歴を見ても何者か良くわからないのだが、ただものとは思えない。
 さて、「ヴィオランタ」、これが伝説の二人一役というか、二人二役だけど登場人物は一人か。知らずに見ていたら、これは訳が分からない。ブニュエルにも二人一役はあったけれど、これは見る方にしてみればもっとややこしいというか、理屈は単純と言うべきか。最後のシーンの首つりなんか見ると、ブニュエルっぽいサプライズなんだけれど、ダニエル・シュミットだとなんかあっさりしているんだよね。胃にもたれないというか。
 それは「天使の影」もそうで、脚本・ヒモ役で出演がファスビンダーなので、話や役柄はどろどろのジャーマン・ニューシネマなのだけれど、シュミットがやると、なぜか、あのドイツのドロドロ感とかアクが抜けない感じがしない。過剰なのが情念ではなく、様式だからだろうか。