父親たちの星条旗

【ワーナー公式】映画(ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信)|硫黄島からの手紙

 ああ、久しぶりに映画見たなあ。やっと風邪が抜けてきたので、見に行ってきた。息子が硫黄島の英雄と言われた父の真実を知る、というフレームワークってなんなのだろう。これ、「マディソン郡の橋」と同じ形式だよな。子供が親の真実を知るという物語なら、そういう話にすべきだし、どうにも変な感じ。直感的に言って、何かを避けたな、という気がする。「マディソン郡の橋」だって、何で子供が母親の浮気について書かれた手紙を読んで、母親を許すという話にしなければならないのか。母親のストーリーだけ見れば、観客は許すに決まっている。それを子供が母親の手紙でそれを知る、という構成にされると、なんだか、四畳半襖の奥張りから出てきたものを読んでいるかのようで、どうにも落ち着かない。これもそうで、英雄の真実と言うだけの話にすればいい。何故それではいけないんだろうか。そこで全てが尽きているのに。観客が画面の中の登場人物として出ているようなものだ。変な照れ方する年でもないと思うのだが。
 硫黄島の戦闘シーンが本当に怖い。上陸して第一陣が海岸から歩を進める。何も反応はない。不気味な緊張感の中第二陣も前に出ようというところで、突然銃撃が襲う。どこから打ってくるのかわからず、部隊は混乱に陥る。次々と兵士が倒れてゆく。。。これほど生々しい戦争映画を他に思い出すことができない。サミュエル・フラーだって、キューブリックだってここまでえげつなくやらなかった。だから、映画だったのだ。飛び散る肉片。地まみれの腕や足が転がる。助けを求める声に振り返れば、吹き飛ばされた首が痙攣している。行軍の途中次々と立ち上がった兵士が打たれて倒れてゆく。闇の中、突然おそってくる敵兵。その闇の中で負傷した兵を衛生兵は見つけることができない。次から次へと兵士がばたばた倒れていく。それを衛生兵は無駄と知りつつも手当し、動かせる者は後方へ運ぶ。輸送船から兵士が海に落ちたときに「誰も本当は助けやしない」と誰かが言ったが、それももっともで、あの混乱の中で、どうせ死んでいく兵士を介護することにどれだけの意味があるというのか。命の尊厳など戦場にはない。ここまで実もふたもなく、映画にするのか?というほどの描写が続く。
 それにしても、後味が苦い。時節柄だからと、イラク戦争に対する厭戦映画と言ってかたずけて良いものか?「ミリオンダラー・ベイビー」もそうだったけれど、人間は苦難に直面して如何に尊厳を勝ち取ることが出来るか?というのが、最近のイーストウッドの映画の主題で、結局はそれは如何に逆境で自分の意志を貫き通すことが出来るか、という小乗仏教的なところにたどり着いてしまっていて、何だか見ている方としても辛い。何をやってもダメだったけど、ボクシングだけはうまくいきそうな気がする、これを取り上げたら私に何が残る?という女ボクサー。英雄と呼ばれることの欺瞞に耐えきれず、自滅していくネイティブ・アメリカン。そして、その脇には彼らを看取るジムのトレーナーや英雄の役割をこなす戦友がいる。しかし、彼らとて、最終的に輝かしい勝利を手にする訳ではないのだ。
 今や、世界的な巨匠として認められるイーストウッドが、何故もかくこうしたテーマにこだわり続けるのだろうか。そのこだわり方が何か尋常ではない。彼の映画はこれまでさほどヤンキーで楽天的なものではなかったにせよ、それなりのハッピーエンドを受け入れてきた映画だってあった。何故、かくもこれほど苦い物語にこだわるのだろうか?その異様さに引きずりこまれてしまう。