「夕凪の街桜の国」:こうの史代

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 泣かされた。原爆ものというと、原資料的なものや悲惨さをありのままに描写するアプローチの「はだしのゲン」のようなものが古典になっているけれど、ここにはそういう直接的な描写は出てこない。原爆の被害を受けた人々のその後の人生と言う視点から語られている。

ぜんたい
この街の人は
不自然だ

誰もあのことを言わない
いまだにわけが わからないのだ

わかっているのは「死ねばいい」と
誰かに思われたということ

思われたのに生き延びているということ

そして一番怖いのは
あれ以来
本当にそう思われても仕方のない
人間に自分がなってしまったことに
自分で時々
きづいてしまう
ことだ

 被爆者が心に抱き続けるのが、怒りよりむしろこういう引け目だということは、見過ごしがちなことではないか。