「稲妻」:生誕百年特集 映画監督 成瀬巳喜男

http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2005-09-10/kaisetsu.html#32
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=135811

稲妻(87分・35mm・白黒)
’52(大映東京)(原)林芙美子(脚)田中澄江(撮)峰重義(美)仲美喜雄(音)齊藤一郎(出)高峰秀子、三浦光子、香川京子、村田知英子、根上淳、小澤榮、浦辺粂子中北千枝子

 性懲りもなく、はしご。健康によい1日ではあった。浦辺粂子って、1952年から死ぬまであの役、あのキャラだったのかというのが新鮮な驚き。原作林芙美子なので、全編「ああ、いやんなっちゃう」という話なのだが、映画は決して乱れない、というか、観ていていやにならない、どころか素晴らしい。演出、美術、照明、脚本、見事で、少しは分析的に観てみようかな、などと嫌らしいことを思ってみたりもするのだが、あまりによどみないので、そんなつまらないことにこだわれる訳もなく、話に引き込まれてしまうのが、何とも言えず、心地良いなあ。
 でも、成瀬巳喜男って、本当に庶民だなあ。小津は庶民的じゃないというつもりはないけれど、このころの作品だと、出てくるのは丸の内の商社勤めとか大学の先生とか、そういうエリートが妻に先立たれて原節子の嫁入りの心配する、っていうのが基本だからなぁ(そんなの心配いらん)。作品をどれだけ選んでいたのかわからないけど、高峰秀子が商店街の女将さんで、お金の心配で苦労するというのが成瀬の基本パターンだもんなあ。
 お母ちゃんは父親が全部違う4人の子供育てて、お兄ちゃんは戦争で南方から帰ってきてからはプーだし、お姉ちゃんは滅茶苦茶エゴイストで旦那見捨てて金持ってる男に走っちゃうし、次のお姉ちゃんは気が弱いし、旦那さんは急に死んじゃって、結局お姉ちゃんのパトロンの姉妹丼になっちゃうし、ああいやだ、私は世田谷に一人で部屋借ります、お隣の兄妹はお上品でピアノなんか弾いちゃって優しくていい人で、ちょっといい感じと思ったら、お母ちゃんがお姉ちゃんいなくなっちゃったけど来てないか?来てないわよ、大体お母さん、何で次から次へと違う人と4人も子供作ったの?こんな事なら生まれてこない方が良かったわよ、あたしなんか、一体何考えてたの?えっ?!と逆ギレしたら、そりゃ、おまえ、あたしだって苦労したんだよ、何もそんなこと言わなくったって(涙)、親子二人でめそめそしてるところに、稲妻がごろごろ鳴って、ああ、感情ぶちまけたら清々した、また明日から頑張ろうね!という話が、何でこんなに爽やかに気持ちよく観ることができるのか?これが、観ていて、殆ど、すがすがしくて、清涼感すら感じたりするのだ。ストーリーや主題とは別の画面のマジックというか、これは一体何なのだろう?
 すっかり、体が成瀬調の快感を覚えてしまった。明日、大島を文芸座へ見に行ったりすると、体調が崩れそうな気がする(笑)。