生誕百年特集 映画監督 成瀬巳喜男

National Film Center, The National Museum of Modern Art, Tokyo
今日はちゃんと早起きして2本見た。なんか、すごい充実感。

妻(96分・35mm・白黒)

結婚10年目、夫婦関係に疲れた夫(上原)は会社のタイピストとの浮気に走るが、妻に知られて別れさせられる。『めし』『夫婦』と合わせて「夫婦」3部作とも呼ばれるが、ここでは冷え切った夫婦の絆は修復されずに終わる。怠惰で冷淡な妻を演じ切ったのは高峰三枝子

’53(東宝)(原)林芙美子(脚)井手俊郎(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齋藤一郎(出)上原謙高峰三枝子丹阿彌谷津子高杉早苗新珠三千代三国連太郎、清水將夫、石黒達也

 高峰三枝子の嫌な奥さんっぷりすごいです。三国連太郎がいなかったら、この映画はいたたまれません。上原謙の旦那さんも、二枚目だけにこういう役良いです。
 せんべい1枚かじるだけでも、夫婦の関係がわかってしまうあの奥さんっぷり。怖い、怖い。メイクから、もうそういう嫌な奥さんに徹している。これぞ女優という感じ。林芙美子の原作だからなぁ。林芙美子の小説なんて読んだことないけど、全部いいたいことは一つで「ああ、生きているのも嫌になった。男なんてなんであんなに勝手なんだろう?」。これを取れるのは、この監督とこの女優のコンビしかない。
 この役を引き受け続けるというのは、やはり成瀬巳喜男高峰三枝子のプロとしての意地の張り合いなのだと思う。ここで、夫は常に超二枚目というのが面白い。見ていると、旦那別に悪くないじゃんという描き方で、この辺はもう監督の意図だろうなあ。そこで、高峰三枝子がどうするか?というのが、基本的な攻防の構図。

おかあさん(98分・35mm・白黒)

戦災で焼け出されたクリーニング店を再び盛り上げようと、夫や息子を失いつつも懸命に生きる母(田中)、とその姿を見つめる娘(香川)。小学生の作文から着想されたホームドラマで、悲哀の中にユーモラスな表現もにじませた構成は、松竹蒲田時代への回帰も感じさせる。

’52(新東宝)(脚)水木洋子(撮)鈴木博(美)加藤雅俊(音)齊藤一郎(出)田中絹代香川京子岡田英次片山明彦、加東大介、鳥羽陽之助、三島雅夫中北千枝子、三好榮子、一の宮あつ子、本間文子、澤村貞子

 日本は貧しかった。お兄ちゃんは病気で死んじゃうし、お父ちゃんも過労から病気になって死んじゃうし、妹は本家に貰われていってしまう。でも、全体通して暗くない。明るい。何故って、みんな貧乏だったから、こんなの当たり前だった。日本の母は皆強かった。
 田中絹代だから、これは愚痴にならない。成瀬の演出は感傷に流されないが、思わず泣かされる。これは良い映画だと思う。
 それにしても、成瀬巳喜男の映画の玄関前と言うのは何なのだろう?何故、あんなに家の前のシーンがいつもいつも繰り返し繰り返し出てくるのだろう?じゃあ、家の中は何なのか?と言うと、これは常に戦いの場だ。だから、家の前というのは、その戦いの前の、リングサイド情報というか、控え室レポートみたいなものなのだと思う。