「裏ヴァージョン」: 松浦 理英子

裏ヴァージョン (文春文庫)

裏ヴァージョン (文春文庫)

 去年の年末に買ったのを忘れて、この前又買ってしまった。仕方ないので、もう読むしかない。と言う訳で読み始めたら、中盤からはあっという間。久しぶりに面白い小説読んだなあ。次は、「犬身」だ。
 「親指P]からこの「裏ヴァージョン」まで7年、「犬身」まで又7年。一体、この人は何をやってその間食いつないでいるのだろう。不思議だ。ブライアン・イーノはどこかの金持ちの男妾で食いつないできたという話を聞いたことがあるが、この人はどうしているんだろう。
 この本が出たのが2000年。そう考えると、松浦 理英子は腐女子のゴッド・マザー、といっても良いのかもしれない。文庫の最後についている大学の先生の解説なんて、今の腐女子的には不要も良いところで、すんなり読めてしまうのかも知れない。
 これだけ性に拘って、官能を論じながら、いわゆる官能とは無縁な次元の小説だなあ、と思うのだが、これって正に『萌え』なんじゃないだろうか。「男×男」と言う自分とは無縁な性別・属性で、肉体ではなく想像の世界で妄想を育むのが、『萌え』の真髄なんじゃないだろうか。想像の世界がなんの琴線にも触れないただの想像では、全然グッと来ない訳で、そのグッと来るようにするトリガーのポイントが『萌え』属性なんだろうな。
 そうしてみると、『萌え』というのは、マルキド・サドと同様に立派なポルノグラフィーなのだろう。あれも妙にリストとかそういう具体的な記述が多いし。
 なんにせよ、40代独身の腐女子2名の同居生活というのは、書かれたときよりも、切実にリアリティがある話になっているなあ。