「わが子キリスト」:武田泰淳

わが子キリスト (講談社文芸文庫)

わが子キリスト (講談社文芸文庫)

ロシアの廃線になった鉄道の写真
ロシアの廃線探検 - GIGAZINE
Abandoned Abhazia | English Russia
を見ていて、そういえば、武田泰淳武田百合子も「犬が星見た」のロシア旅行でここを通ったのだろうか、と思った。彼らの旅行の頃はロシアはアメリカと並ぶほど豊かな国だった。共産主義に夢と未来を見ていた人が沢山いた。だから、北朝鮮にも大勢の人が帰国してしまった。そんな時代があったなんて、もはや今のこの惨状を見ると想像も出来ない。そういえば、「わが子キリスト」も読み終わったのに何も書いてなかったなあ、と思いだした。
  「わが子キリスト」は、エルサレムに進駐したローマ軍の兵士がマリアを犯し生まれたのがキリストで、再度エルサレムにやってきた兵士が顧問官と謀略をめぐらせキリストを処刑するが、その息子そっくりの彼の姿を信者たちはキリストの復活と認める、という中編。彼の指導者たる顧問官も病で死に、息子であるキリストも処刑され、自身の張り巡らせた陰謀の罠の中に取り残されるラストシーンが圧巻。政治の迷路の中で、思っても見ないところにふっと出てしまう兵士の姿は、政治の不気味さを現している。そして、それをプログラムしていたかのような顧問官とキリスト。
 「王者と異族の美姫たち」も面白い。晋の宮廷につれて来られた異族の寵妃と息子の三兄弟の争いの話。

「そんな小さな道理より、もっと大きな道理がこの世にはあるのでございます。」

「揚州の老虎」は中国の革命初期の揚州の実力者に題材をとった話。

「三日よりは長引くさ。だが三年はもたんよ。」
そして、周谷人の予言はまたもや的中した。

 この三作品はいずれも政治を題材にしているが、いずれも奇怪な政治に翻弄される人間、というよりはその奇っ怪な政治的な世界そのものを描こうとしている。この小説自体が、文学的というよりも、政治的だ。