「日蝕」:平野啓一郎

日蝕 (新潮文庫)

日蝕 (新潮文庫)

 読了。1975年生まれで、何でこんな戦前の翻訳みたいな漢字だらけの小説がかけるのだろう?まず、その技量に感嘆。両性具有とか、巨人の幻影とか、もっと暗示的に示すのかと思ったら、そのままベタで直接的に書いているのが、何だか意外な気がした。四方田氏の解説がいつもながらに明快で、読後に読んだら、そうか、反復なのか、と何となくすっきりした。でも、反復する、と言うのは、じゃあ、結局どういうことなのだろう?
 題材としては、M・ユルスナールの「黒の過程」を思い出したけど、あれは過去の時代を今小説の中で生きてみせる、という、それ自体が魔術的・奇跡的な小説だけど、これはそういう小説ではない。そもそも、中世の仏蘭西を舞台にわざわざ戦前の翻訳調で描いてみせるというのが、どうにもいかがわしい。その意味で、これは仏蘭西を内容的には舞台にしているが、日本の翻訳小説が形式的には舞台なのだ。