「生誕100年 名匠・成瀬巳喜男の世界」

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女の中にいる他人
乱れる
 リプリントの美しさに感動。
 「女の中にいる他人」は、夫の告白後の新珠三千代の鬼気迫る演技が素晴らしい。最初から、小林桂樹がすごく怪しいというのは御客の側は分かって見ているのだけれど、それだけに、前半はいつ見破られてしまうのか、と言うのがスリリング。停電の告白から、新珠三千代の形相が変わってくる。停電のシーンもそうだし、トンネルでの告白も心の深い闇が見事に出ている。会社の持ち逃げも、平行して良心の呵責を問う、凄くうまい設定。最後のどんでん返しも、温泉宿の毒薬の伏線から当然なのだけど、やはり、引きずり込まれてしまう。粗筋を拾ってみれば、どうと言うこともないドラマが、何でこんなに素晴らしいのか?というのは不思議で仕方ない。
 それは、「乱れる」も同じことで、何故、若大将の加山雄三があんなに良いのか?というと、橋本治の「完本チャンバラ時代劇講座」

完本チャンバラ時代劇講座

完本チャンバラ時代劇講座

でも言われていたけど、若さ、なのだとは思う。お寺のシーンとか、雨合羽のシーンとか、決定的なシーンの凄さ。今にしてみれば、高峰秀子って、垢抜けない昔のいかにも日本日本したおばさんで、何故、あのおばちゃんでこんな美しいメロドラマになるのか?最後の湯煙の温泉街を走る高峰秀子の切なさ、美しさは一体何なのだろう?
 これを読みながら考えることにしよう。
成瀬巳喜男の世界へ リュミエール叢書36

成瀬巳喜男の世界へ リュミエール叢書36