「最終戦争論」 石原莞爾

最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)

最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)

  • 関東軍参謀、満州事変、東条英機との衝突から予備役へ…。稀代の戦略家、日蓮宗からの影響、…。対米開戦反対、核戦争時代の予言、…。やはり、一度は読んでみたいじゃないか。昭和十五年五月二十九日京都義方会に於ける講演速記で同年八月若干追補、ということは、1940年

第一部 最終戦争論
第一章 戦争史の大観

しかし世の中は、あることに徹底したときが革命の時なんです。

この大局観。

古くからの横隊戦術が、非常に価値あるもの高級なものと常識で信じられていたときに、新しい時代が来ていたのです。それに移るのがよいと思って移ったのではなく、これは低級なものだと思いながら、やむを得ず、やらざるを得なくなって、やったのです。

  • シャープって、自前でブラウン管作れなかった会社なんだよな。それで、液晶にかけるしかなくて、延々と拘ってきたから、今がある。

 特に皆さんに注意していただきたいのは、フランス革命に於ける軍事上の変化の直接原因は兵器の進歩ではなかったことであります。中世暗黒時代から文芸復興へ移るときに軍事上の革命が起ったのは、鉄砲の発明という兵器の関係でありました。けれどもフランス革命で横隊戦術から散兵戦術に、持久戦争から決戦戦争に移った直接の動機は兵器の進歩ではありません。フリードリヒ大王の使った鉄砲とナポレオンの使ったものとは大差がないのです。社会制度の変化が軍事上の革命を来たした直接の原因であります。このあいだ、帝大の教授がたが、このことについて「何か新兵器があったでしょう」と言われますから「新兵器はなかったのです」と言って頑張りますと、「そんなら兵器の製造能力に革命があったのでしょうか」と申されます。「しかし、そんなこともありませんでした」と答えぎるを得ないのです。兵器の進歩によってフランス革命を来たしたことにしなければ、学者には都合が悪いらしいのですが、都合が悪くても現実は致し方ないのであります。ただし兵器の進歩は既に散兵の時代となりつつあったのに、社会制度がフランス革命まで、これを阻止していたと見ることができます。

  • BLOGだって、そうだよなあ。技術じゃなくて、マネジメントや商品企画で話が変わっちゃうことは良くある。

プロイセン軍はフリードリヒ大王の偉業にうぬぼれていたのでしたが、一八〇六年、イエーナでナポレオンに徹底的にやられてから、はじめて夢からさめ、科学的性格を活かしてナポレオンの用兵を研究し、ナポレオンの戦術をまねし出しました。さあそうなると、殊にモスコー敗戦後は、遺憾ながらナポレオンはドイツの兵隊に容易には勝てなくなってしまいました。世の中では末期のナポレオンは淋病で活動が鈍ったとか、用兵の能力が低下したとか、いい加減なことを言いますけれども、ナポレオンの軍事的才能は年とともに発達したのです。しかし相手もナポレオンのやることを覚えてしまったのです。人間はそんなに違うものではありません。皆さんの中にも、秀才と秀才でない人がありましょう。けれども大した違いではありません。ナポレオンの大成功は、大革命の時代に世に率先して新しい時代の用兵術の根本義をとらえた結果であります。天才ナポレオンも、もう二十年後に生まれたなら、コルシカの砲兵隊長ぐらいで死んでしまっただろうと思います。諸君のように大きな変化の時代に生まれた人は非常に幸福であります。この幸福を感謝せねばなりません。ヒットラーやナポレオン以上になれる特別な機会に生まれたのです。

  • 戦術はマネできるから、マネされたらお終い。マネできないようにするのが戦略。

ぼんくらまで、そう思ったときには、もう世の中は変っているのです。

  • ありがち。

 なぜ持久戦争になったかと申しますと、第一に兵器が非常に進歩しました。殊に自動火器――機関銃は極めて防禦に適当な兵器であります。だからして簡単には正面が抜けない。第二にフランス革命の頃は、国民皆兵でも兵数は大して多くなかったのですが、第一次欧州戦争では、健康な男は全部、戦争に出る。歴史で未だかつてなかったところの大兵力となったのです。それで正面が抜けない。さればと言って敵の背後に迂回しようとすると、戦線は兵力の増加によってスイスから北海までのびているので迂回することもできない。突破もできなければ迂回もできない。それで持久戦争になったのであります。
 フランス革命のときは社会の革命が戦術に変化を及ばして、戦争の性質が持久戦争から決戦戦争になったのでしたが、第一次欧州大戦では兵器の進歩と兵力の増加によって、決戦戦争から持久戦争に変ったのであります。

  • う〜ん、おもしろい。

第二章 最終戦

 戦争発達の極限に達するこの次の決戦戦争で戦争が無くなるのです。人間の闘争心は無くなりません。闘争心が無くならなくて戦争が無くなるとは、どういうことか。国家の対立が無くなる――即ち世界がこの次の決戦戦争で一つになるのであります。

  • この辺から、神がかってくる?

例えば戦国時代の終りに日本が統一したのは軍事、主として兵器の進歩の結果であります。即ち戦国時代の末に信長、秀吉、家康という世界歴史でも最も優れた三人の偉人が一緒に日本に生まれて来ました。三人の協同作業です。信長が、あの天才的な閃(ひらめ)きで、大革新を妨げる堅固な殻を打ち割りました。割った後もあまり天才振りを発揮されると困ります。それで明智光秀が信長を殺した。信長が死んだのは用事が終ったからであります。それで秀吉が荒削りに日本の統一を完成し、朝鮮征伐までやって統一した日本の力を示しました。そこに家康が出て来て、うるさい婆さんのように万事キチンと整頓してしまった。徳川が信長や秀吉の考えたような皇室中心主義を実行しなかったのは遺憾千万ですが、この三人で、ともかく日本を統一したのであります。

  • 三人の協同作業、というのは、いわれてみると説得力ある。

 要するに世界の一地方を根拠とする武力が、全世界の至るところに対し迅速にその威力を発揮し、抵抗するものを屈伏し得るようになれば、世界は自然に統一することとなります。

  • 原爆について、どれだけ知っていたんだろうか?

 飛行機は無着陸で世界をクルグル廻る。しかも破壊兵器は最も新鋭なもの、例えば今日戦争になって次の朝、夜が明けて見ると敵国の首府や主要都市は徹底的に破壊されている。その代り大阪も、東京も、北京も、上海も、廃墟になっておりましょう。すべてが吹き飛んでしまう……。それぐらいの破壊力のものであろうと思います。そうなると戦争は短期間に終る。それ精神総動員だ、総力戦だなどと騒いでいる間は最終戦争は来ない。そんななまぬるいのは持久戦争時代のことで、決戦戦争では問題にならない。この次の決戦戦争では降ると見て笠取るひまもなくやっつけてしまうのです。このような決戦兵器を創造して、この惨状にどこまでも堪え得る者が最後の優者であります。

  • 怖いなあ、この人。

第三章 世界の統一

 次にヨーロッパです。第一次欧州戦争の結果たるベルサイユ体制は、反動的で非常に無理があったものですから遂に今日の破局を来たしました。今度の戦争が起ると、「われわれは戦争に勝ったならば断じてベルサイユの体制に還すのではない。ナチは打倒しなければならぬ。ああいう独裁者は人類の平和のために打倒して、われわれの方針である自由主義の信条に基づく新しいヨーロッパの連合体制を採ろう」というのが、英国の知識階級の世論だと言われております。ドイツ側はどうでありましたか。たしか去年の秋のことでした。トルコ駐在のドイツ大使フォン・パーペンがドイツに帰る途中、イスタンブールで新聞記者にドイツの戦争目的如何という質問を受けた。ナチでないのでありますから、比較的慎重な態度を採らなけれはならぬパーペンが、言下に「ドイツが勝ったならばヨーロッパ連盟を作るのだ」と申しました。ナチスの世界観である「運命協同体」を指導原理とするヨーロッパ連盟を作るのが、ヒットラーの理想であるだろうと思います。フランスの屈伏後に於けるドイツの態度から見ても、このことは間違いないと信ぜられます。第一次欧州戦争が終りましてから、オーストリアのクーデンホーフが汎ヨーロッパということを唱導しまして、フランスのブリアン、ドイツのストレーゼマンという政治家も、その実現に熱意を見せたのでありますが、とうとうそこまで行かないでウヤムヤになったのです。今度の大破局に当ってヨーロッパの連合体を作るということが、再びヨーロッパ人の真剣な気持になりつつあるものと思われます。

  • 今のEUを見たら、彼は何というだろう?

 最後に東亜であります。目下、日本と支那は東洋では未だかつてなかった大戦争を継続しております。しかしこの戦争も結局は日支両国が本当に提携するための悩みなのです。日本はおぼろ気ながら近衛声明以来それを認識しております。近衛声明以来ではありません。開戦当初から聖戦と唱えられたのがそれであります。如何なる犠牲を払っても、われわれは代償を求めるのではない、本当に日支の新しい提携の方針を確立すればそれでよろしいということは、今や日本の信念になりつつあります。明治維新後、民族国家を完成しようとして、他民族を軽視する傾向を強めたことは否定できません。台湾、朝鮮、満州支那に於て遺憾ながら他民族の心をつかみ得なかった最大原因は、ここにあることを深く反省するのが事変処理、昭和維新、東亜連盟結成の基礎条件であります。中華民国でも三民主義民族主義孫文時代のままではなく、今度の事変を契機として新しい世界の趨勢に即応したものに進展することを信ずるものであります。今日の世界的形勢に於て、科学文明に立ち遅れた東亜の諸民族が西洋人と太刀打ちしようとするならば、われわれは精神力、道義力によって提携するのが最も重要な点でありますから、聡明な日本民族漢民族も、もう間もなく大勢を達観して、心から諒解するようになるだろうと思います。

  • 満州事変やった人とは思えないこと言ってるよ。でも、本気でこう考えてたんなら(だろうな)、すごいな。

 悠久の昔から東方道義の道統を伝持遊ばされた天皇が、間もなく東亜連盟の盟主、次いで世界の天皇と仰がれることは、われわれの堅い信仰であります。今日、特に日本人に注意して頂きたいのは、日本の国力が増進するにつれ、国民は特に謙譲の徳を守り、最大の犠牲を甘受して、東亜諸民族が心から天皇の御位置を信仰するに至ることを妨げぬよう心掛けねばならぬことであります。天皇が東亜諸民族から盟主と仰がれる日こそ、即ち東亜連盟が真に完成した日であります。しかし八紘一宇の御精神を拝すれば、天皇が東亜連盟の盟主、世界の天皇と仰がれるに至っても日本国は盟主ではありません。

  • 満州国の統治で苦労したというのが反映しているんだろうなあ。

 今年はアメリカの旅客機が亜成層圏を飛ぶというのであります。成層圏の征服も間もなく実現することと信じます。科学の進歩から、どんな恐ろしい新兵器が出ないとも言えません。この見地から、この三十年は最大の緊張をもって挙国一致、いな東亜数億の人々が一団となって最大の能力を発揮しなければなりません。
 この最終戦争の期間はどのくらい続くだろうか。これはまた更に空想が大きくなるのでありますが、例えば東亜と米州とで決戦をやると仮定すれば、始まったら極めて短期間で片付きます。しかし準決勝で両集団が残ったのでありますが、他にまだ沢山の相当な国々があるのですから、本当に余震が鎮静して戦争がなくなり人類の前史が終るまで、即ち最終戦争の時代は二十年見当であろう。言い換えれば今から三十年内外で人類の最後の決勝戦の時期に入り、五十年以内に世界が一つになるだろう。こういうふうに私は算盤を弾いた次第であります。

  • この辺から、だいぶ想像が入ってくるのかな?でも、さすがにイスラムの話までは出てこないな。

第四章 昭和維新

  • この辺から余り感心できなくなってくる。

第五章 仏教の予言

  • すごいことになってくる。

 今度は少し方面を変えまして宗教上から見た見解を一つお話したいと思います。非科学的な予言への、われわれのあこがれが宗教の大きな問題であります。しかし人間は科学的判断、つまり理性のみを以てしては満足安心のできないものがあって、そこに予言や見通しに対する強いあこがれがあるのであります。今の日本国民は、この時局をどういうふうにして解決するか、見通しが欲しいのです。予言が欲しいのです。ヒットラーが天下を取りました。それを可能にしたのはヒットラーの見通しであります。第一次欧州戦争の結果、全く行き詰まってしまったドイツでは、何ぴともあの苦境を脱する着想が考えられなかったときに、彼はベルサイユ条約を打倒して必ず民族の復興を果し得る信念を懐いたのです。大切なのはヒットラーの見通しであります。最初は狂人扱いをされましたが、その見通しが数年の間に、どうも本当でありそうだと国民が考えたときに、ヒットラーに対する信頼が生まれ、今日の状態に持って来たのであります。私は宗教の最も大切なことは予言であると思います。

私は宗教の最も危険なことは予言であると思います。日蓮宗の話が延々と続く。
第六章 結び

 われわれが仮にヨーロッパの組とか、あるいは米州の組と決勝戦をやることになっても、断じて、かれらを憎み、かれらと利害を争うのでありません。恐るべき惨虐行為が行なわれるのですが、根本の精神は武道大会に両方の選士が出て来て一生懸命にやるのと同じことであります。人類文明の帰着点は、われわれが全能力を発揮して正しく堂々と争うことによって、神の審判を受けるのです。
 東洋人、特に日本人としては絶えずこの気持を正しく持ち、いやしくも敵を侮辱するとか、敵を憎むとかいうことは絶対にやるべからざることで、敵を十分に尊敬し敬意を持って堂々と戦わなけれはなりません。
 ある人がこう言うのです。君の言うことは本当らしい、本当らしいから余り言いふらすな、向こうが準備するからコッソリやれと。これでは東亜の男子、日本男子ではない。東方道義ではない。断じて皇道ではありません。よろしい、準備をさせよう、向こうも十分に準備をやれ、こっちも準備をやり、堂々たる戦いをやらなければならぬ。こう思うのであります。
 しかし断わって置かなければならないのは、こういう時代の大きな意義を一日でも早く達観し得る聡明な民族、聡明な国民が結局、世界の優者たるべき本質を持っているということです。その見地から私は、昭和維新の大目的を達成するために、この大きな時代の精神を一日も速やかに全日本国民と全東亜民族に了解させることが、私たちの最も大事な仕事であると確信するものであります。

関連HP

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昭和天皇独白録 (文春文庫)

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