『自由とは何か』 佐伯啓思

自由とは何か (講談社現代新書)

自由とは何か (講談社現代新書)

今日では誰もが「自由」は最も大切な価値だと考えている。このことにあえて異をはさむ者はいないだろう。だが、同時にまた、今日、自由という言葉はもはや人々の心を揺さぶるような響きを持っていない。人々は自由に飽きているようにさえ見える。
しかし、この人質事件が明らかにしていることは、自由の根拠として、そもそも常に自己責任などという観念が成り立つのか、ということであり、自己責任よりももっと根本的な問題があるということであった。
しかし、重要なことに、多文化主義そのものが、実は六十年代のアメリカのリベラル・デモクラシーの運動の中から出てきたものであった。
事件後、あるテレビ番組で大人と少年たちが議論をしている中で、少年の一人が、ふと「どうして人を殺してはならないのか」と問いかけた。………問いが問いとして成立した瞬間に、説明責任は問われた側にまわってくる。問いを認めたとたん、認めた側は、それに対して答えなければならなくなる。
バーリンは、この二つの自由概念(注:「積極的自由(…への自由)」と「消極的自由(…からの自由)」)を明確に区別すべきだという。その上で、彼は、より重要なのは「消極的自由」(…からの自由)だと主張する。
それは、「自由」という価値によっては決して問題は解決し得ないというペシミズムである。
こうして事実命題と価値命題の峻別、言い換えれば実証主義という近代的精神の結果として次のことが帰結しよう。それは、「傘を持って出ることがよいかどうか」よりも、「彼がそれを自ら選択出来たかどうか」のほうがいっそう重要だということだ。
こうして、援助交際の事例が、ある意味でリベラリズムのアプリアをあぶりだしてくれる。それは、「価値」の問題を、あたかも個人の「嗜好」や「利害」の問題であるかのように扱ったからであった。なぜなら、リベラリズムにおいては、「価値」も「嗜好」も「利害」も基本的に区別できないからだ。
言い換えれば、ここでは人間活動の目的そのものは議論の対象にはなっておらず、さらにいえば活動の目的は議論できないとされている。活動の目的は主観的である相対的であるために、それについて論じることはできない。そこで、客観的条件としての「自由」や「平等」に焦点が合わされ、それだけではなく、やがて「自由」や「平等」こそが最高の価値と見なされることになった。
だがその結果、リベラリズムの文脈において最も議論の困難な論点は何かというと、「共同体の防衛」なのである。
それは、「両者(注:カントと孟子)ともに、生を犠牲にしても構わないほどに、何にもまして重要だと思われるものがあると、率直に述べている」点だ、とジュリアンはいう。

 日頃何となく今の世の中に感じていることを明快に指摘してくれる本だったので、メモとして引用。最後は、もう哲学の話ではないのだが、そこでどうするか、というのが、難しいところだと思う。全体主義でも、単なる功利主義でも、宗教的な神秘主義でもなく、全ての人間が共感できるものとは何だろうか?ここで述べられている「義」とは何だろうか?それは、今の若者にとっては、自由よりも心が震えない言葉なのではないか?
 終盤は、一つ間違うと不安だ、後一歩踏み込むとヤバイな、というところが沢山ある。これでは、結局、靖国神社万歳ではないか?議論が後半はどんどん主観的になってくる(ならざるを得ないのかもしれないが)感がある。
 何故、こういう結論になるのだろう?いや、この話にそもそも結論はないと思う。選択だけがあるのではないか?しかし、前半の現在の「自由」を巡る議論には同感できるところも多々ある。何を価値あるものとして選択するのか?という個人の問題に行き着くのかもしれないが、この共感がこの系統の論客の危険なところかもしれない。

日経BP新刊

科学経営のための実践的MOT-技術主導型企業からイノベーション主導型企業へ

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 スイス連邦工科大学(ETH)企業科学センターのヒューゴ・チルキー教授が中心となって編纂したテクノロジーイノベーション・マネジメントに関する大学院向け教科書。多くのMOTのテキストは、テクノロジーマネジメントを企業の機能的側面から解説しているが、本書はより実践的にイノベーション主導型企業のマネジメントに焦点をあてる。 エレクトロニクス、情報産業、薬品からナノテクノロジーといった先端分野の技術を題材として、それぞれの企業のテクノロジーイノベーション・マネジメントに対する考え方を検証して、その実践への糸口を探っている点が、本書の大きな特徴といえる。
 先端技術を無条件にビジネスソリューションの源泉と考えるのではなく、技術開発には「回避すべき」リスクが常にあることを念頭におき、研究・技術開発の「最良の方法」を探る。技術は自社で「作る」のか他社から「買う」のか、知的財産については自社のものとして「守る」のか他社に「売る」のか、といった例をはじめ、高度なレベルの複雑性への対処が求められるイノベーションを実現する企業を経営するための手立てを記す。
 従来のアメリカ流とは異なるヨーロッパ流MOTの画期的な教科書。

ちょっとおもしろそう。立ち読みして買うかどうか決めよっと。

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読んでも禁煙する気はないから読むだけ無駄か。
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