『五〇〇億ドルでできること』:ビョルン・ロンボルグ

五〇〇億ドルでできること

五〇〇億ドルでできること

 地球温暖化感染症対策、内戦、教育、政治腐敗、飢餓と栄養不良、移民、水問題、貿易障壁、金融の不安定性。あと500億ドルの予算を自由に使えるとしたら、世界の福利に最大限の効果を上げるためには、これらの問題にいかに予算を配分するべきか?
 これが、この本で報告されているコペンハーゲン合意に課された問題だった。ここでは、各問題について、費用対効果の分析が行われ、それに対する反論が提出される。その議論を元に著名なノーベル賞受賞者を含む経済学者(ということはアメリカが多い)が、各問題を評価する。その報告がこの本。
 読んでいて、まず思ったのは、これはMOTでいうポートフォリオ・マネージメントと全く同じだな、ということ。ベンチャー投資ファンドは、候補案件の評価を行い、各候補に点数をつけてランキングする。そして、予算が許す限り、リストの上から投資していく。まあ、色をつけることもあるだろうけど、こういうリストをまず作らないと議論は始まらない。ベンチャー投資の場合、打率よりも打点が問題なので、大当たりが出ればよい。多死多産を前提に、こういう地引き網でひっかける、というのが、基本的な戦略である。ベンチャーの場合、不確定性が高いので、これがうまくいくかどうか議論をしてもきりがないし、スピードの勝負なので、これでとにかくやってみる、というやり方でやった方が早い。少なくとも、そのスピードの分は勝率が高くなる。これがシリコン・ヴァレーの勝利の方程式だった。
 この戦略は、投資家としては合理的だし、意志決定しやすい。しかし、この戦略や手法は大企業の内部では評判はよろしくない。外部の投資家ならいざ知らず、企業の内部では、社内のこの研究開発がうまくいくかどうか?というのが問題なのであって、生きるか死ぬかの二択であって、期待値とか平均値というのはあまり意味がないことが多い。
 この話もそれと同じようなところがある。宇宙船地球号の住民としては、まず、これが破綻したら死ぬ!というものを取り除かなければいけないと思うだろう。でも、ここでの評価基準は経済効果だ。費用に対して、どれだけの効果が経済的に期待できるか?というのが、ここでの問題設定だからだ。
 こういう方法で必ず正しい答がでるとは限らない。しかし、これだけ正確な数値を算出することが難しい問題ばかりでは、正しい答をまず出そうとしたら、その間に問題は拡大していくだろう。機会損失も考えなければいけない。その意味では、これが最善の方法かどうかが問題だ。
 もちろん、緊急性の高い案件への優先的配分、一つの対策が及ぼす波及効果の考慮など、考えなければいけないことはたくさんある。そもそも、その影響が算出できないと、このやり方では、評価されない。しかし、それでもこうした現実的な視点から考えないと、結局、何もできないし、何も良くならない。影響や効果が算出できない問題に、やみくもにリソースを投入するわけにも行かない。この第1回合意では、環境問題については、非常に評価が低く、物議を醸したようだが、確かに環境問題を扱おうとすると、こうした問題が出てくるだろう。
 何が正しいか、という学問的な話ではなく、どうすればうまくいきそうか、という実際的な問題解決の手法として、こういうことは考えなければいけないのだと思う。